『米国のスタートアップ』と聞くと、性別や国籍関係のない実力主義の世界。そんなイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし現実は、すべての人が等しくチャンスを得ているとは言い難い状態だ。

スタートアップエコシステムに潜む見えない壁

米Forbesの記事によると、2018年時点で黒人の創設者へ投資しているベンチャーキャピタルは、米国全体の1%にも満たない。

人種だけではなく性別による壁もある。InstaCartのデータアナリストJeremy Stanley氏は、スタートアップの企業データベースを分析し、3,867社6,771人の創業者のうち、女性の比率が10.5%だったことを明らかにした。さらに過去5年間で投資件数の多いVC上位100社のポートフォリオを分析した結果、女性創業者の割合がたった5%以下のVCも存在したという。

最近では、こうした偏りがビジネスに与えるネガティブな影響も明らかになっている。2016年に「Center for Global Policy Solutions」の実施した調査では、マイノリティにお金が流れづらい状況や、白人男性の経営している企業が優遇される傾向によって、米国は900万の雇用と3,000億ドルもの国民所得を失っていることが指摘されている。

誰もがチャンスを掴める社会を目指して

こうした根強い人種や性別による壁を取り払おうとする人たちもいる。黒人でレズビアンの女性Arlan Hamilton氏率いるベンチャーキャピタル「Backstage Capital」だ。2015年に創設された同社は有色人種や女性、LGBTQなど、テック界隈におけるマイノリティーを積極的に支援している。これまでに出資した100社の創設者は68%が女性、62%が黒人、8%がラテン系、13%だという。

同社は2018年6月、投資先企業が100社を突破したと発表。2020年までに100社を目標としていたのが、2年も前倒しで達成してしまった。この凄まじい成長は、これまえで多くの人々が機会を得られずにいたという証明でもあるのかもしれない。

Backstage Capitalの投資先からはまだエグジットした企業はないが、「数年後には必ずユニコーン企業が出てくる」と創設者のArlan Hamilton氏は自信をのぞかせている。

スタートアップに私たちが期待するもの

スタートアップは従来の物の見方や常識を「Disrupt」する存在だからこそ、大勢の人をワクワクさせるのだと筆者は思っている。しかしそのスタートアップを生むエコシステムにも旧来の差別構造が残っている。この現状は変えていかなければいけない。

Backstage Capitalがユニコーン企業を生むVCとして成功すれば、米国スタートアップのエコシステムだけでなく、世界のテック界隈でマイノリティーの希望になるだろう。2年も前倒しで一つの目標を達成してしまった彼ら。きっと予想よりも早く、良い知らせを届けてくれるはずだ。