とある業務効率化ツールの営業として働いていた友人は、自分たちのチームがいかに非効率的な働き方をしているかをよく嘆いていた。

彼女の属していた組織のように、プロダクトの発するメッセージと、組織のカルチャーや社員の意識が乖離している状況は、決して珍しいことではないように思う。

「効果的なキャンペーンやイベントの源は、そのブランドストーリーを体現し、追求している社内のチームです」

そう掲げるのは、ラスベガスのマーケティングエージェンシー「CatalystCreativ」だ。彼らは組織内部の課題を特定し、解決するためのワークショップを行う。インナーコミュニケーションを深めた上で、ブランディングやイベント、デザインなどのマーケティング戦略の提案へとつなげていくのだ。

社内での“体験”と社外に届ける“体験”、その両方を統合して提供するのが“エクスペリエンシャル・マーケティング”だという。設立者のAmanda Suilva氏は、自分たちは“コミュニティデザインファーム”あるいは“エクスペリエンシャルスタジオ”と表現する。

社内向けのワークショップの内容は組織によって多岐に渡る。例えば「Brand Acupuncture Workshop」では4日間のワークショップを通じて、組織内の「pain points(弱点、痛点)」を特定し、解決策を練る。「Feminine Workplace Workshop」は、感情を的確に伝え、効果的に意思疎通する文化を学ぶワークショップだ。

エンゲージメントの7つのレベル

設立者のAmanda Slavin氏は教育を専攻し、カリキュラム作成を学んでいた。同社の提供するワークショップには彼女のバックグラウンドが活かされている。

たとえばSulavin氏は社内外のメンバーとブランドメッセージに対するエンゲージメントを、以下の7つの指標で分類している。

7. Literate Thinking
メンバーが自身の知識や経験、個人的な信念、価値観、感情にもとづいてブランドのコンセプトについて深く思考できる状態。

6. Critical Engagement
メンバーが自身の目標を達成するために、ゴールを設定したり、生き方をシフトしたりする。

5. Self-Regulated Interest
ブランドのメッセージへの熱狂や個人的な関心が高まっている

4. Structure-Dependent Engagement
参加のハードルが低い場合に、ブランドの掲げるアクティビティーに積極的に参加する。

3. Frustrated Engagement
メンバーがブランドへのメッセージを理解し、共感を感じられている。しかし何か
しらの障害により具体的な行動は起こしていない。

2. Unsystematic Engagement
メンバーがメッセージを理解できず、ブランドと関わるための行動ができない。

1. Disengagement
メンバーが無関心で、ブランドに関わるタスクや交流を拒んでいる。

組織の内と外の“媒介(catalyst)”を目指す彼らは、オフィスを構えるラスベガスにおいてもその役割を果たそうとしている。

毎月ラスベガスで「Catalyst Week」と呼ばれる4日間のワークショップを開催し、地元の人々がコラボレーションする場をつくってきた。ワークショップでは、地元初の企業やプロジェクトに投資支援を行う企業「Downtown Project」について学びながら、交流を深めていくという。

プロダクトの機能そのものより、その背景にあるストーリーや理念への「共感」が消費を促すと言われて久しい。しかし出来合いのストーリーや理念を掲げても恐らく意味はないだろう。消費者はその嘘にすぐ気づいてしまうからだ。

内部で共有されている思想と外部に発するメッセージに一貫性が問われる時代において、ブランディングやマーケティングに関わる企業の取り組む領域は、今後より多角化していくのかもしれない。