高齢化は日本社会が抱える社会課題の一つだ。医療介護費の支出は50兆円を超えており、社会保障費も増加の一途をたどっている。
医療や介護が必要な人々が増える一方で、その仕事に従事する人々の数は不足しており、生産性を向上させるためのツールの導入もなかなか進みにくいという状況にある。
業界で働く人々は、業務の負担が大きく本来の仕事である対人援助が十分にできていない状態だ。
こうした課題を解決すべく、医療ソーシャルワーカー・ケアマネジャーのための介護施設マッチングサービス「KURASERU(クラセル)」の企画・開発・提供を行う株式会社KURASERUが、500 Startups Japanを引受先とする第三者割当増資により、5千万円の資金調達を実施した。
退院調整支援サービス「KURASERU」
「KURASERU」は、在宅療養が困難な患者と介護施設をマッチングし、 医療ソーシャルワーカーの退院調整を支援することで、退院後も患者さんが安心して生活できるように支援するサービスだ。
同サービスは、「病院が退院支援を行う際に使用する検索システム」と「介護施設側から病院へのオファーシステム」からなる。病院側はプラットフォーム上から適切な介護施設を探すことができ、介護施設側は空いている床の情報を病院側に伝達できる。
これまでどこにも情報がまとまっておらず、医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーに負担がかかっていた患者の退院調整を「KURASERU」が支援する。
創業からサービスリリース、調達までがハイペースで進行
同社は、医療ソーシャルワーカーとしての経験のある川原大樹氏と、IT企業の経営を行ってきた平山流石氏の二人が共同で立ち上げた。川原氏がゼミの同級生である平山氏に、解決したい課題を相談したことから始まった。
河原「医療ソーシャルワーカーとして働いていた時、現状の介護施設のマッチングは医療ソーシャルワーカーや家族または患者様の知識量の中でしか選べず、本当にこれで良かったのかと悩んでいる姿を数多く見てきました。ITを通じて病院と介護施設の情報格差を無くし、最適な環境を患者様がベストセレクトできることが重要だと考えました」
平山氏は相談された内容に対してITなら解決可能だと回答し、ともに社会が抱える課題の解決を目指すことが決まった。
KURASERUは、2017年10月に創業と同時にサービスを開発開始。同年12月に神戸のスタートアップ支援プログラム「KOBE Global Startup Gateway」に採択。2018年1月にはサービスをローンチし、2018年3月の「KOBE Global Startup Gateway」のデモデイを経て、今回の資金調達へと至った。
創業からサービスリリース、資金調達までのプロセスをかなりのハイペースで進めてきている。
医療情報のプラットフォーム化を第一に考えて展開
サービスリリース以降、「KURASERU」は神戸市内の46の病院と128の介護施設が利用している。「KURASERU」上で、介護施設の入所検討したユーザーはすでに50名を超えているという。
同サービスは、まず使ってもらうことを優先しており、病院・介護施設・在宅療養支援事業所など、サービスの利用者のいずれからも課金をしていない。まず、プラットフォームとしてユーザーに利用してもらう状態を構築することを第一に考え、導入施設数を増やしていく方針だ。
導入のハードルが気になるところだが、医療機関や介護施設が導入を前向きに検討しやすいよう、同サービスのカスタマーサクセスチームは医療ソーシャルワーカーやケアマネージャーの経験者で構成されている点も面白い。
今後、同社は今回調達した資金を元に、エンジニアを採用して開発の強化に取り組み、神戸を拠点にサービス利用者を増やしながら、全国への展開を図る予定だ。
KURASERUはITで医療介護のプラットフォームを構築することを通じて、「誰もが暮らしたい場所でクラセル」世界をつくることを目指している。同社のような、ITと医療の架け橋になる企業が出てくることで、業界のデジタルトランスフォーメーションが進んでいくことにも期待したい。