幼い頃に読んだ千夜一夜物語のことを時折思い出す。

それは小学校低学年の頃、母が買ってくれた大判の分厚い本で、寝る前や部屋の片付けに飽きた時に読んだ。今でも忘れられない面白い話もあれば、ただつまらなくて途中で挫折した話もあった。それでも、一貫して描かれる異国情緒溢れる描写は、夢見がちだった少女の私をいろんな世界に運んでくれた。それは今思い返しても色鮮やかで甘やかな読書体験だった。

しかし、大人になってみると、本を買い与えてくれる人もいなくなり、新しい物語に飛び込む探究心も萎んでしまって、自分の世界の殻を破ることが難しくなる。そうして、20歳を境にめっきり本を読まなくなった。

そんな私のような人にこそ薦めたいのが、小説のサブスクリプションサービス、「Alignist(アライニスト)」だ。

毎月届く、異国の情景に思い馳せ

「Alignist」は、毎月異なる国の小説と、その国にまつわる小物が届くサブスクリプションサービス。

例えば、インド、デリー出身のKaran Mahajan(カラン・マハジャン)が自身の幼少期の経験から爆撃とその被害者家族や、彼らのトラウマの繋がりについて綴った「The Association of Small Bombs」が届けられた際には、デリーを象徴する折り畳み式の紙人力車やカルダモンチャイティー、ケバブのレシビや現地のロードマップなどのアイテムが添付された。

こうしたアイテムはただ読者の気持ちを盛り上げるだけではないという。今後読者に送る予定のシリアに関する小説には、現地の職人たちによる製品や、シリア難民たちが生み出した作品添付する予定だ。売り上げの一部は、現地で困難な生活に苦しむ人々に還元されるそう。

考案者は記者として国際的に活躍していたBeenish Ahmed(ビーニッシュ・アハメド)さん。彼女は仕事で外国に行く際には、前準備として訪れる国の小説を読んでいた。フィクションの世界を通して、日常的にニュースやSNSで目にする以外の視点を得られたという。

アジアや南米、アフリカなど、日頃ニュースで注目されることの少ない国の小説を共有すれば、人々はよりその国に親近感を抱くのではないか。「Alignist」にはそんな彼女の想いが込められている。

このように「Alignist」はただ楽しく本と出会うサービスにとどまらない。私たちの視野を広げ、世界により深く強い繋がりを持たせてくれるのだ。このサービスにもっと早く出会えていたら、私の人生はもっと読書に近しいものになっただろうし、もっと広い世界を見ることができただろう。

現在「Alignist」はアメリカでのみサービスを提供している。ローンチ開始からわずか数ヶ月ではあるが、利用者たちからは「自国で流れるニュースをこれまでと違う視点で見るようになった」という意見が寄せられているという。

小説を読む時、私たちは緩やかな時間の中で情報を得ることができる。即時的なニュースの見出しだけではわからない世界を小説を介して知ることで、より視野を広げ、思索を深めることができるだろう。

何より夢見がちな少女から今と戦い生きる大人になってしまった私は、小説という形で届けられる異国の風景をどのように見るのだろうか?その問いかけは、私をワクワクさせてくれる。