「空いた時間にサクッとお小遣い稼ぎ♪」
これが代表的なキャッチコピーだった。あえていうが、クソみたいな話である。
ぼくは求人広告の代理店で働いていた経験があり、営業・企画・原稿制作をしていた。数多くある職種のなかで、副業ワーカーをターゲットとした仕事といえば「新聞配達」「清掃業の早朝シフト」「WEBライティング」などがパッと思いつく。主に主婦(夫)や、あまり上手くいっていない自営業をしている方などが実際に応募にいたることが多く、一癖も二癖もあれば三癖も四癖もある人材だったと当時の顧客はよくいった。
以上はあくまでもぼくの経験・記憶でしかない。
求人広告の営業マンとしての能力ははっきりいって低かったし、モチベーションも決して高いとはいえなかったぼくが、この業界についていえることなどなにもない。しかし、求人倍率が1.0を超え、なおも2020年までは単調増加するだろうと見込まれる求人市場における人材獲得戦争は熾烈を極めていることだけは確かだ。新規参入の求人媒体も増加し、広告主も広告を売る側も激しい競争にさらされ、少なくとも現場レベルでは皆が疲弊している。理不尽に釣り上がる売上目標、早急に人材補充をしないと廃業の危機にさらされてしまう顧客。その両者が顔を突き合せる商談の場では白昼堂々と愚痴と猥談が繰り広げられ、怪しげな笑いにより締められる。
ネット上で人材系の話題が出ると、「未来のキャリア設計」を見据えたキラキラした印象を受けるが、末端をみればぶっちゃけ夢も希望もない。ただ、人が足りていない状況に対する打開策というのは国レベルで解決されねばならない問題であることには変わりなく、そのためにも「副業」は極めて重要なキーワードとなっている。
冒頭に掲げた定型的なキャッチコピーのように、従来「副業」は「経済的にもう少し楽になりたい」という労働者に向けた言葉だったが、このイメージの根本的な改変が不可欠だ。
こうした流れのなか、シューマツワーカーは4000万円の資金調達を受け、さらなる事業拡大に乗り出した。
変わる「副業」の考え方
シューマツワーカーは「副業したい人材と企業をつなげる」ことをコンセプトとした同名のWEBサイトを運営していて、エンジニアやデザイナー、マーケッターなどの副業社員を企業に紹介するエージェント型サービスを提供している。主にスタートアップ企業が多く、これまでに約80社ほどの企業が利用している。
もちろん自身の担当領域の問題でしかなかったということは否めないが、募集職種にしろ、求職者の特徴にしろ、ぼくが求人広告の現場で知っている世界と大きく違うことにまず驚いた。自らのキャリア形成を目的とした副業希望者が増加していることは注目に値する。
「人材の流動化」ということばが広がりを見せる昨今、国も副業を推奨する方向で動いているという報道もある。厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、労働者のキャリアの形成に関するメリットが言及され、同時に企業側のメリットとしても雇用人材の自発的な成長を促せるということが挙げられている。
シューマツワーカー代表取締役である松村幸弥氏は「エンジニア人材の採用コストの上昇」を背景に副業社員ニーズの高まりについて言及している。
給料だけでなく社会保険も含め、人を雇うには実際問題として多額の予算を必要とする。
「社員を増やしたくても増やせない」という求人現場の問題は中小企業になるほど切実なもので、特に体制もまだ確立されていないスタートアップ企業ではとりわけ大きな問題となる。かつ、エンジニアなどスキル人材となればなおさらだ。そうした現状を踏まえると、「副業社員としてピンポイントで働く」というものが企業と求職者の接点になっている。
「副業」の難しさと可能性
「副業」「パラレルワーク」については、スタートアップ企業だけでなく、大手企業での導入事例も増えてきている。上述のような労働者個々のキャリア形成の多様化や自発的なスキルアップの促進という点だけを見れば良いこと尽くしに見えるが、やはり「本業への支障」であったり「社内情報の漏洩リスクの増加」などの懸念からまだまだ一般化するには時間がかかるのではないだろうか。
しかし、フリーランスとして働くようになってから個人的に強く思うことは、「技術に対して適正な報酬が与えられるのか?」という点がやはり気になる。ライター業界であればクラウドソーシングなどにより副業として働ける案件をネット上で無数に見つけることができるが、その平均単価は恐ろしく低い。
副業やパラレルワークでは、収入面だけでなく「スキルアップ」や「やりがい」が強く打ち出される風潮になりつつある。しかし多くの副業ワーカーが「お金なんていいんですよ!」というスタンスで受注してしまうと業界全体のデフレを招きかねないし、悪意を持った企業による「やりがい搾取」にもつながる可能性がある。
ともあれ副業やパラレルワークの価値観の変化は、個人の働き方の自由度を拡大しうる大きなパラダイムシフトであることには変わりない。今後のこの市場の行く末は興味深い。