スマートフォンの画面が予期せず光る。メールかと思ったら、利用しているアプリの一つに新機能が加わったらしい。好奇心でアプリを開くと、まず広告が出てくる。半口を開け、無心で広告を見つめること15秒、無事操作画面にたどり着き、軽く新機能を試して顔を上げる。

「私、何しようと思ってたんだっけ」

便利なはずのスマートフォンに思考を中断されてしまう、自分の好奇心が嫌になる。そして好奇心の源たるアプリのことも、ちょっと嫌いになる。

アプリの開発者だって、きっとただ新機能を見て欲しかっただけなのに、私だって新機能を試したかっただけなのに。タイミングがずれるだけで、それはただ不快な感覚を生み出す通知になってしまう。

しかし、今や私たちは無料で便利を享受し続けるために、広告を見ねばならないことを知っている。多少のタイミングの悪さやデバイスにへばりつかなくてはならない不便さを我慢しよう、そう思ってはいる。しかし、胸にモヤモヤした不満が残る。

そんなコンテンツと利用者の歪な関係に、Googleが「待った」をかけた。2018年5月9日、サンフランシスコで開催されたI/O カンファレンスにて、Googleはユーザーがより心地よくコンテンツを利用するための複数の新機能を発表したのだ。

この一連の発表の際、Googleは“デジタルウェルビーイング”を掲げた。

より良い社会を目指して、人間とデバイスに程よい距離を

近年、ほとんどのテック企業はなるべく多くのユーザーに、なるべく長い時間見てもらうことを意識したコンテンツ制作に力を注いできた。例えば、Facebookは、アカウント情報に応じて広告を表示することができる機能、カスタムオーディエンスを充実させ、Facebookを閲覧するユーザー数や各ユーザーの滞在時間の拡大を図ってきた。

しかし、必要としていない情報を時間をかけて見せるということは、ユーザーにとっては時間の無駄であるし、その時間によってユーザーが望む情報に到達できなければ機会損失になる。

そこでGoogleは、各コンテンツに対するユーザーの滞在時間・時間帯やデバイスのオン・オフの回数、タイミングを計測し、より効率的なデバイスの使い方を提案する機能をAndroid端末に搭載した。ユーザーにデバイスから離れ休憩を促す機能までついているというから驚きだ。

また、YouTubeアプリにも、通知の回数や時間帯を調整できる機能をつけるなど、ユーザーは必要な情報を、適切なタイミングで必要な時間だけ閲覧できるよう工夫が凝らしてある。

このほかにも、ユーザーがより簡単にメッセージを送れたり、店の予約など代替可能なアクションを代わりに行ってくれる機能などがGoogleに追加されるという。

テクノロジーは便利だ。便利すぎて自分を見失ってしまうほどに。あまりに簡単に情報のインプットやアウトプット、さらにはマネタイズまでできてしまうものだから、私たちはSNSやコンテンツの上で長い時間過ごしてしまい、つい、実生活が疎かになってしまう。

しかし、Googleは人工知能やユーザーの行動解析によって培った高度な技術を駆使し、私たちにデバイスとのよりよい距離を提示してくれる。

デバイスやコンテンツによってユーザーを振り回すのではなく、それらとうまく付き合う方法を提示する。こうした“デジタルウェルビーイング”の考え方が広がり、テクノロジーがよりよい未来をもたらしてくれることを期待したい。