わずか半年ほどだったが、アメリカに研究留学しているあいだに隣の研究室がつぶれた。気づいたらからっぽになっていた。

ほとんどあてもなく勢いだけでアメリカに来てしまったために「頼れるひと」などおらず、言語的な不得手もあり最初の1ヶ月はずいぶん苦労したものだが、おなじ大学に籍を置いていた日本人ポスドクの方が単に「日本人」だという共通点のみでいろいろと手助けしてくれたのはありがたかった。「隣の研究室がつぶれた」というのはぼくにとって割と衝撃的な事件だったわけなのだけれど、仲良くなったポスドクのAさんとお昼ごはんを食べながらそんな話をしていると、かれはぜんぜん普通だよといった。アメリカでは大学は貸しビルみたいなものだからね。アメリカのごはんの量にまだ慣れていない頃で、けっきょく慣れないまま帰ってきた。

アメリカでは寄付や投資といった行為がちょっとしたステータスになるという。

今後芽が出るだろうビジネスやテクノロジーへの貢献や参加意識を企業や投資家は持っていて、それゆえに新しいものに対してシビアな見極めを行う。研究者たちの研究費獲得競争は熾烈を極め、自らの研究室を維持するためにはその勝者となる必要がある。このことが良いか悪いかはさておき、重要なのが「創造」というのは「お金」により支えられているという現実であって、お金の適切な流れが良い創造を生み出すという構造があるということだ。

「クラウドファンディング」という土壌

「投資」ということばからは「iPS細胞」やら「人工知能」やらの大規模で深淵なプロジェクトが想起されがちだが、なにもそういうものだけのためにあるものではない。それをもっとも端的に示しているのが「クラウドファンディング」だ。

クラウドファンディングのシステムが確立されるなかで、小規模団体だけでなく個人も簡単にネットを通じて寄付・支援を呼びかけることができるようになった。家入一真氏が代表取締役をつとめる株式会社CAMPFIREが運営する「CAMPFIRE」や「polca」といったクラウドファンディングプラットフォームの台頭により、「少額支援の募集」が一般化しつつあることは注目に値する。

クラウドファンディングの浸透により、少額も高額も含め「目標金額の多様化」が進むと、人々の創意もまた多様化すると考えられる。たとえば少額支援募集の一例を覗いてみると

  • 絵本を作りたい
  • 義父のお祝いをしたい
  • 子どものために独創的なミニ四駆を作りたい

といった、ビジネス未満ではあるけれど生活を豊かにしうる創意の種が巻かれている。
それに対して「子どものいたずらに乗っかる」という感覚で作られる「さまざまな創造力を育む土壌」がクラウドファンディングの可能性だ。大なり小なり存在するさまざまな創造力の「当事者」になることが社会全体の創造力を育んでいくだろう。

クラウドファンディングは新たなリテラシーとなるか?

前述したクラウドファンディングプラットフォームの運営で知られる株式会社CAMPFIREは学校法人 札幌慈恵学園 札幌新陽高等学校と業務提携契約を締結した。

株式会社CAMPFIREは資金調達についてのノウハウを活かし、

  1. クラウドファンディングを活用したPBL(Project Based Learning)の開発
  2. 資金調達や仮想通貨等、ポスト資本主義に活きる金融教育の実施
  3. その他、生徒の可能性を最大化する新規事業の企画推進

の支援を計画していると発表した。
ありがちな話になるが、AI技術が進化すると単純作業を中心とした仕事がすべて機械にとって変わられると危惧されている。そうした世の中が到来したとして、そのなかでもアクティブに働き続けることができるのは「創造性を発揮できる人材」なのは考えるまでもない。しかし、「じゃあ創造力を鍛えましょう!」というような漠然とした教育をするのは安易であり、「そもそもクリエイティビティが発揮される土壌が今の社会にあるのか」というところに株式会社CAMPFIREの問題意識があるように思われる。

仕事の価値が「クリエイティビティ」ということばに日々集約化されつつあるような感覚が個人的にあるのだが、その根本的な部分への問いとして「新しいお金の流れ」を知り、それを実践できる人材を輩出する教育の価値は高いだろう。