眼鏡やコンタクトがない世界を想像してみた。本が読めない、運動ができない、車を運転することができない。あまりにも不便だった。わたしたちは、日々医療機器に助けられて生活している。

視覚障害や、読字障害がある人、低視力高齢者、海外渡航者など、文字を読むことが困難な人々から必要とされている機器。それが、文字を読み上げてくれる眼鏡「OTON GLASS」だ。

OTON GLASSは「誰もが文字を読める世界」を目指すスマートグラス。眼鏡をかけてボタンを押すだけで、文字を識別し音声に変換、その場で読み上げてくれる。

使用者が難なくスムーズに文字を理解することができる、便利な眼鏡だ。同行者なしでは困難だった読書や散歩。OTON GLASSの可能性に、利用者の期待は高まる。

そんなOTON GLASSが、現在2018年内の発売を予定し、クラウドファンディングで資金を募っている。期間は2018年5月3日まで。5000円からの支援が可能だ。

小さい眼鏡で文字を認識「読める喜び」の仕組み


そんなOTON GLASSはどのように使えばいいのだろうか。まずOTON GLASSをかけて、読み取りたい文字のほうを向く。眼鏡のつる部分のボタンを押す。すると、搭載されたカメラが視界を撮影。写真がクラウド上にアップロードされる。文字が認識されると、音声合成エンジンによって音声データ化され、OTON GLASSから文字が音声で再生される仕組みになっている。

スマートフォンでも類似サービスが見られるが、ポケットから取り出す手間がかかったり、街中での撮影は不自然な行為ととられててしまったりと、実用性に欠けている部分もあった。

OTON GLASSは眼鏡型なので両手がふさがらず、白杖の利用者でも安全に使える。また、難しい操作を必要としないため、子供や高齢者も簡単に使用できる。社会で本当に必要としている使用者の、ニーズに寄り添ったデザインがポイントだ。

OTON GLASSができるまで

開発者の島影圭佑氏は、なぜOTON GLASSを作ろうと試みたのだろうか。

そこには、自身の経験が関係していた。2013年、彼の父が脳梗塞に。その後遺症で「失読症」という障害を患った。ある日突然、文字が読めなくなってしまったのだ。そこで、当時大学でプロダクトデザインを専攻していた島影氏は、父のために、この眼鏡を考案した。『soar』のインタビュー記事で、このように発言している。

文字が読めなくなった父の手助けができないか。悩んだ末にたどり着いたのが、父の読みをサポートするプロダクトを自分でつくることでした

必要としている人々の声に支えられて

メガネって「読む能力を拡張するもの」としてみんなに認知されていますよね。その文脈に乗せることで社会に受け入れてもらいやすくなると考えているんです。

メガネによって視力が悪いことが障害だと思われなくなったように、OTON GLASSがディスレクシアの人にとってのメガネになりたい。文字を読めない人がいることを当たり前にする。そんな社会を目指したい。

日常で使用されている眼鏡やコンタクトのように、OTON GLASSを福祉機器として必要とする人々の声が、島影氏の原動力になっているという。

今回クラウドファンディングで集められた資金は、視覚障害のある協力者へOTON GLASSを届けるために利用される。より多くの人から実用性が認められれば、自治体から福祉機器として認定され、低価格で、必要な人に届けられるようになる。

最先端グラスがわたしたちの「新しい常識」になる日は近いだろう。