伝統的工芸品産業振興協会によると、2012年度における伝統工芸品の生産額は1040億円。1983年度の5400億円と比べると、伝統工芸品産業の衰退が顕著なことがわかる。

従事者数でみても、1979年の28万8000人に比べて、2012年度は6万9635人となっている。伝統工芸品産業が衰退した背景には、大量生産/大量消費の経済構造が確立されたことや後継者不足、原材料の確保難、生活様式の変化などが挙げられている。

この伝統工芸産業に着目し、新たな事業を立ち上げたのが全日本空輸(以下、ANA)だ。同社は2018年1月、伝統工芸品に関するECサイト「WAYO」をオープンした。

WAYOは、日常的に活用できる伝統工芸品を購入できるECサイトと、伝統工芸の匠を紹介するインタビュー記事で構成される。同年2月時点では、人間国宝に認定された作家による木工藝や刀剣界最高賞を受賞した巨匠による日本刀のストーリーが紹介されている。

決済方法は、クレジットカードとマイル決済となっている。取り扱い商品数は300品種/2000点以上。2018年の早い段階で、英語と中国語にも対応する予定とした。

訪日外国人消費を中心に、航空以外の新規事業を拡大へ

今回の事業は、ANAホールディングスとオープンイノベーション促進を狙うベンチャーキャピタルWiLの共同ビジネスコンテストで事業化が決定した最初の取り組みだ。

ANAホールディングスは、2016年1月に発表した「2016~2020年度 ANAグループ中期経営戦略」において、有形無形資産を活用した新規事業の創造を掲げている。訪日外国人消費の取り込みを中心に、航空事業以外の領域を拡大させていく狙いだ。

訪日観光プロセスとANAグループのビジネスチャンス

世界中の各拠点を持つ強みを生かした事業を考える中で、たどり着いた一つの答えが「伝統工芸品産業」だった。国内市場で低迷している伝統工芸品産業は訪日外国人に需要があるのではないか、地方創生にもつながっていくと考えたという。

そこでWiLと連携し、社内外から人材を集めてWAYOの運営主体となる株式会社LiveArtsを立ち上げ、顧客関連事業のマーケティングを担うANA Xと事業化を進めてきた。

ANA Xが携わっているのは、マイルの活用を促進する狙いもあるだろう。約3100万人の会員数がいる「ANAマイレージクラブ」は、ふるさと納税の寄付100円で1マイルのプレゼント、毎月マイルが貯まるスマートフォン「ANA Phone」などのサービスを提供している。

ANA広報は、「マイレージグラブのサービスを拡大しているのは、飛行機を乗らないときにもANAを活用してもらいたいから。WAYOもマイレージサービスを活用して、マイルが貯まる/使えるといった利便性の高いサービスにしていきたい」とコメントした。

2020年の東京五輪では、多くの外国人が日本に訪れることが予想される。日本滞在の思い出に、多くの伝統工芸品がWAYOから世界中に届く日が訪れるかもしれない。