飲み会でつい遅くなってしまった夜。駅から家に向かうまで線路に沿って歩く。ふと横を見るとぽっかりと暗闇が口を開けていた。街灯の光がわずかに差し、辛うじて舗装された空間であることがわかる。高架下だ。うすら怖くなり、思わす急ぎ足になる。

翌朝、同じ道を通ると、高架下には数台の放置自転車が置いてあるだけで、誰も気にも留めていない。昼間はさみしく、夜は近寄りがたい。そんな街の空白を利用して地域を盛り上げていこうというプロジェクトが今、立ち上がろうとしている。

それが、「YADOKARI(ヤドカリ)株式会社」と「京浜急行電鉄株式会社」が提携することで実現した、日本初の移動可能なホテル「YADOKARI×京急電鉄 高架下タイニーハウスホステル」だ。

「動産・タイニーハウス」×「高架下」

「高架下タイニーハウスホステル」は、横浜市、日ノ出町・黄金町エリアの沿線高架下の敷地、約495平米に移動可能な動産やタイニーハウスを設置するプロジェクトだ。

このプロジェクトの軸となるのは、宿泊・コミュニティスペース・アクティビティの三要素。これらの相乗効果によって今まで日ノ出町・黄金町エリアに来なかった人々を呼び込み、地元企業や居住者との交流ができるコミュニティハブとしての企画・運営を目指し、街の活性化に携わっていく。

観光客を呼び込むホテル

日ノ出町・黄金町エリアは横浜駅・桜木町・野毛などの人気の観光地に近接しているため、人気エリアの観光客にむけてホステルを運営する。また、大岡川に面した情景豊かな環境を生かしすことや、カフェラウンジや水上アクティビティ拠点などの機能を充実させることで、リピーターや日ノ出町・黄金町エリアを目当てに訪れる観光客を増やしたいという。

地域の人々の憩いの場

カフェラウンジは、街に開かれたパブリックなコミュニティスペースとしても解放する。各種イベント、マルシェ、ワークショップなどを定期的に開催することで、地元住民や自治体と連携しながら界隈性の生まれる施設運営を目指す。

若者を中心に人気のアクティヴィティー

地元の人々に長年愛されている桜の名所である大岡川に面した立地を生かし、近年世界中で人気が高まっている水上アクティヴィティであるスタンドアップパドルボード(SUP)などを楽しめる施設を併設する。

アートによる街の再生―京急電鉄と横浜市による取り組み―

京急電鉄は、これまでも沿線高架下の活用を積極的に行っており、今回の開発の中心となる日ノ出町・黄金町エリアにおいては、地域住民・行政・警察とも連携して高架下に文化芸術スタジオの整備を行うなど「アートによるまちづくり」を推進してきた。

アーティストの滞在制作やショップが注目を集めるとともに、地元NPOが毎年開催するアートフェスティバル「黄金町バザール」が定着するなど、近年では、多くの人々が訪れるエリアとなっている。また高架下タイニーハウスホステルに隣接する大岡川では「横浜日ノ出桟橋」「大岡川桜桟橋」を活用した水上交通の発展に向けてクルーズ事業なども展開を始めている。

横浜市が掲げる「クリエイティブシティ・ヨコハマ」の実現を目指した動きは、アーティスト・クリエーターを中心に、都心部において定着してきている。

横浜市は文化・芸術分野を中心に先進的な取り組みを展開し、歴史的建造物・倉庫・民間ビル等を活用し、横浜ならではの創造性あふれる都市づくりを行ってきた。また、市民がアーティスト・クリエーターと触れ合う場を作ることで、日常的な都市空間が全く異なる魅力を持つことを発見。さらに、都市の抱える様々な問題に対して市民自らが創造性を発揮し解決に向けて行動していく可能性を見出してきた。

このような背景から高架下タイニーハウスホステルもアーティスト・クリエーターにとどまらず、すべての市民が創造的な表現活動の実践者となる機会と、文化交流の接点となるような施設、場創りを目指していくということだ。

「住」における豊かさを再定義する会社YADOKARIとは?

YADOKARIは、「ミニマルライフ」、「タイニーハウス」、「多拠点居住」を通じ、暮らしの選択肢を増やすことで「住」の視点から新しい豊かさを定義することを目的に、世界中のタイニーハウスおよびモバイルハウスのメディア運営や、動産活用による遊休地や暫定地の企画・開発を手掛けている。彼らの事業の中核となっている「タイニーハウス」とはいったい何なのか?

2008年アメリカ、リーマンショックに伴い、経済の先行きが見えない中で人々が望んだ”家”は、広い庭に、ゆったりとした玄関アプローチがある”マイホーム”ではなく、ローンを組まずに建てることができ、日々の生活に必要な最低限のものだけを詰め込んだ小さな家、「タイニーハウス」だった。

この動きはタイニーハウスムーブメントと呼ばれ、その多くは自動車で牽引することができる(つまり、トレーラータイプの)動産をベースとした住宅だった。

一方、日本では2011年に東日本大震災が発生。これをきっかけに「小さな暮らし」(断捨離・ミニマリスト・シンプルライフ・小屋・ノマドなど)の潮流として、住まい方や働き方を見直そうという動きが広がりつつある。

国内においてシンプルに生きる手だての一つとしてタイニーハウスがひそかに注目を集めている。このような流れはアメリカや日本だけではなく欧州・北欧など含め先進国で同時多発的に始まっており、消費文化へのカウンターとしても機能し始めている。

そんな背景から、YADOKARIは2030年の未来の豊かな暮らしを見据えている。「車・家・仕事場の融合:パーソナルモビリティ領域の発展」に向けて、モビリティハウス・モビリティオフィスの開発を進めているそうだ。また、住宅やオフィス以外にも店舗や空き地・遊休地などの暫定利用に「短工期、移動可能、コスト安」のメリットのある動産・タイニーハウスは有効であると考え、今後も企業や自治体と連携して動産を活用した施設を展開していく予定とのこと。

住まい、コミュニティスペース、アクティヴィティ、アート。はじめは空白だった高架下が様々な要素が交差しあう新しい空間を作り出す様は必見だ。