朝、テレビをつけると思わず画面に釘付けになった。一台の車が見るも無残な姿で映し出されている。ボンネットは大きく窪み、道路の片脇にあるガードレールは歪んでいた。事故が起きたのは金曜日の夜。運転手からは、規定値以上のアルコール濃度が検出されたという。

死亡事故のうち飲酒運転による事故の比率は、日本では約10%に上る。一方、アメリカではこの数字が約35%に跳ね上がる。国際基準で見ても、アメリカは飲酒運転による事故が多い国と認めざるを得ない。

そんなアメリカにある変化が訪れる。シェアリング・エコノミーの代表格となる配車サービスの登場だ。2017年にSocial Science Research Networkで掲載された論文によると、カリフォルニア州を始め、いくつかの都市において、2009年から2014年の間に配車サービスが登場して以降、飲酒運転による死亡率が大幅に減少していたことが明らかになった。

その反面、配車サービスの需要が集中し、料金も高くなる週末・休日には、平日と比べて飲酒運転事故の削減効果が弱かったという。つまり、配車サービスのコスト面をネックに感じ、結果的に飲酒運転に及んでしまうひとが少なからずいるということかもしれない。

そこに目をつけたのが、カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置く配車サービス「Lyft」だ。同社はシカゴの醸造酒会社であるBaderbräuと提携を組み、「Five Star Lager」という名のオリジナル缶ビールを開発。商品には「Lyft」で利用できる、最大60%オフのディスカウントコードが付いてくる。コードの有効期間は、「Lyft」のアカウントに入力してから7日間。ビールは1月18日からシカゴ内のいくつかのバーで提供を開始している。

「Five Star Lager」を飲み、ディスカウント価格でLyftに乗って帰宅する。このような体験が当たり前になれば、飲酒運転事故が起きる心配もなくなるだろう。

この取り組みに関して、米国中西部におけるLyft社のゼネラルマネジャーを務めるDavid Katcher(デイヴィッド・キャッチャー)氏は、以下のように語った。

街に遊びに出かける際、シカゴ市民がより責任感を持った行動を取れるようにという思いから、Baderbräu社との提携を決断し「Five Star Lager」を生み出すに至った。

単なるビジネス目的ではなく、シカゴにおける飲酒運転の実情を根本的に解決していきたいというLyft社の願いは、これからどこまで広がりを見せるのか。ビール一本で、飲酒運転を起こす世の中。ビール一本で、飲酒運転を減らす世の中。どちらがいいかは、一目瞭然だろう。