アートには”空間”を変える力がある。アメリカ・ミネソタのクリニックが挑戦したのは、アートを使って”健康”を再定義することだった。
”近寄りがたい”病院が抱えている問題
ミネソタ州のクリニック「The People’s Center(ザ・ピープルズ・センター)」では、健康についての啓蒙活動が定期的に行われてきた。だが、このクリニックが位置するミネソタ州、ミネアポリスは古くからアーティストや活動家、移民が多いことで知られており、退屈な”健康セミナー”では人が集まらないという課題を抱えていた。治療を受けたくても料金を支払うことが難しいという住人もいて、そういった人々は病院に対して、”近寄りがたい”という印象を持っていたという。
そんな一筋縄ではいかないThe People’s Centerの健康教育に一役買うべく、一人のアーティストが活動をはじめた。それが、Soozin Hirschmugl(スージン・ハーチマグル)だ。
アートが作る新たな健康コミュニティ
彼女と彼女の仲間の芸術家16名が、週に一度、医院の前の芝生上にトレイラーでやってくる。テーブルを広げて訪れた患者や、スタッフ、通行人と共にイラストを描く。もちろん、ただ座るだけの人、談笑する人、お茶を飲み一服する人もいる。芝生には、ハーチマグル達のトレーラー以外にも、卓球台、フェイシャルスパやお茶を提供するテントまで、様々なポップアップストアが並んでいる。
このプロジェクトは、全国の病院やクリニックが行っているアートセラピーとは一味違う。The People’s Centerが目指しているのは、病気に重点を置いたものではなく、万人が関わる根本的な健康を考えるコミュニティづくりだ。The People’s Centerとアーティストが考える健康は、食事であったり、美容であったり、心安らかに過ごすことであったり、人によって異なるものだ。それぞれの個性を認め合い、学び合う空間を創出することで、健康をより身近に感じられる。
“I’m looking out for my health by…”
「私が健康を保つために気をつけていることは…」ハーチマグルのもとを訪れた人々は各々、この続きをカードやボードに記入するそうだ。The People’s Centerの来院者数などに大きな変化はない。だが、勤務する医師たちは診察時、来院者の様子からこのプロジェクトの成功を感じ取っている。
アートには、私たちの”当たり前”を変える力がある。そして、私たちは誰もがアーティストになりうるのだ。