「あなたには意見がないの?」

長期留学でスロバキアに渡り、現地の大学で講義を受けているときに一人の生徒から言われた言葉だった。現代社会が抱える問題について、隣の人と議論をする。簡単なことのように思えたが、いざ議論が始まると途端に何も言葉が見つからない。

原因は「言葉の壁」ではなく、「そもそも意見がない」ということだった。日本の大学では席に座って教授の話を聞くだけで、90分間の講義が終わっていたなんてことも少なくない。一つのトピックに対して自分の意見を持つということを怠ってきたツケが回ってきた瞬間だった。

意見を持つことはもとより、それを自分の言葉で外に発信することや、他者の意見に耳を傾けることも大切であるように思う。思考力がつくのはもちろん、一つの物事に対して多角的な見方ができるようになるからだ。

そんな「ディベート力」を伸ばしてくれるアプリが、ブラジルのリオデジャネイロから開発された。コミュニケーションプラットホームの「Mixmind」である。

同アプリでは、現代社会に関する様々なトピックについてユーザー同士で議論を交わすことができる。一つのテーマに対して、自分とは反対の意見を持つユーザー1人とチャットを通じて、意見を交換し合うスタイルだ。

相手にメッセージを送る前には、そのメッセージのタイプ(主張・反論・疑問・返答・参照など)を選択する必要があるなど、やみくもな議論展開を避ける工夫がされている。

またディベートの途中で、相手の議論態度を五段階で評価するタイミングがある。高いレートをつければつけるほど、相手には「Modpowers(モデレーションパワー)」というポイントが付与される仕組みだ。

一定数ポイントが溜まったユーザーは、議論のイニシアチブを握りやすくなる特別な機能を使えるようになる。ユーザー同士の攻撃的な意見交換を抑制させる狙いだろう。

ドイツで始まった社会の分断を乗り越えるためのアプローチ

両極端な意見を持つ人同士をマッチングし、議論を促す。「Mixmind」の他に、ドイツのニュースメディア「ツァイト・オンライン」が同様の取り組みをスタートさせている。「ドイッチェランド・シュプレヒト」(和訳:ドイツ人、語る)というプロジェクトだ。

その目的は、難民受け入れに対する問題などを巡り、社会に生じた両極端化・分断化を緩和すること。オンラインでドイツの現代社会が抱える問題について複数の質問を投げ、回答者の中から正反対の考えを持った者同士をマッチングさせたあと、実際に会って話し合うことを依頼した。

600組が呼びかけに応じ、昨年の6月18日にドイツ各地で一斉に「ドイッチェランド・シュプレヒ」は行われた。「ツァイト・オンライン」が、会話の様子を撮影した写真を送ってほしいと頼んだところ、次々と画像や感想が寄せられたという。中には「友人になった」という声もあったそうだ。

自分とは反対の意見を持つ人と腰を据えて話し合う。大きなエネルギーを消費することだが、相手の話に耳を傾ける力や新しい気付きを得られるチャンスでもある。

世界中の人と、スマホ1台で意見を交換しあうことができる「Mixmind」。この記事を読んで、あなたはどんな意見を持っただろうか。「何も思わなかった」という人こそ、このアプリを使って学び得るものは多いのかもしれない。