2017年9月16日〜18日に秋田県で行われた「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」の県南コースをレポートしています。

最先端の「探究型授業」を体験!

2日目最初のプログラムでは、このキャンプのメインイベント東成瀬村立東成瀬小学校での「探究型授業」を体験します!

1日目は児童館におじゃましましたが、2日目は同じ敷地内にある小学校へ向かいます。

10年以上前から「探究型授業」を実践している東成瀬小学校。全国学力テストでも例年トップクラスの成績を収めています。そんな東成瀬小学校には、探究型授業の要素を少しでも取り入れようと、年間600人もの教育関係者が視察に訪れています。

何はともあれ、まずは探究型授業の体験を!…ということで、算数の授業を受けてみることになりました。今回授業を担当してくださったのは、柴田昌幸先生。2013年に東成瀬小学校に赴任され、日々子どもたちを探究型の授業で指導しています。

このプログラムのあいだ、小学校に上がっていない子どもたちは別室で遊びながら過ごしました。授業を受けるのは、小学生の男の子一人と保護者やスタッフの大人達。さて、探究型授業のスタートです!

先生:ではまず、“ある・なし”クイズに挑戦しましょう!山にあって、海にないものはなんでしょう?分かったら手をあげてくださいね。

黒板には、「山」と「海」の文字が貼られます。

子ども:はい!木!
先生:皆さんどうですか?

こう言った先生の問いかけに、東成瀬小学校の子どもたちは、ハンドサインで答えるそうです。

ハンドサインは6種類。自分が小学生だった頃を振り返ると、答えが分かったとき、発表をしたいときは自信を持って手を挙げることができましたが、分からないことが出てくると、みんなに置いていかれてしまうようで、心細くなったことを思い出します。

「困った」ときも手を挙げられるハンドサインは、授業を活気溢れるものにすることはもちろん、どんなときも子どもが積極的に授業に参加することを促す役割を持っているのかもしれません。

先生:「田」にあって「畑」にないものは?「O」にあって「Z」にないものは?

…と授業は進みます。子どもも大人も積極的に手を挙げ授業に参加します。

先生:まわりの人がまだ考えているからこしょこしょ話で教えて。
回答すると先生は「そうだね!それもあるね」「よく気づいたね」と声をかけます。

「鏡で見ると同じになる」などの具体的な意見が出始めたところで課題を設定します。今日の授業の課題は、「“ある”ほうの形にはどんな特徴があるのだろうか」。普段の授業だと、課題を設定したあとは、自分の考えをそれぞれノートに書いていきます。

その後、ノートに書いたことをみんなで発表。誰かが「折ると同じになる」と発表すれば、先生がわざと横に折りまげ、「あれ?同じにならないね?」と教室に問いかけます。そんなふうに子どもの考えを膨らませながら、みんなで一緒に考えていくのが東成瀬小学校の探究型授業です。

この段階までくれば子どもたちのなかにイメージはできているものの、それを正確な言葉で表すことが難しいのだと柴田先生は話します。

「中心で線を引くと、折って開いても左右合同な形になる特徴がある」そこまで引き出した後、まとめにつなげます。

今回のまとめは、「“ある”ほうは、線対称な図形である。ある直線を折り目として折り返したとき、両側がぴったり重なる図形を線対称な図形といいます。この直線を対称の軸といいます」

今回は、ショートバージョンなので授業はここまででしたが、東成瀬小学校ではどの教科も、問題→予想→課題→考え(自分で・みんなで)→まとめ→練習→振り返りという流れで進みます。子どもたちにまず課題意識を持たせるため、練習や復習以外では教科書に頼らずに授業が進むそう。

こんな授業を毎日準備する先生方はどんなに大変なのだろうという声が上がりましたが、そんな苦労を吹き飛ばすのは子どもたちだと、柴田先生は朗らかな笑顔で話します。子どもの学ぼうとする態度やきらきらした目を見ると、良い授業をしなくてはと使命感を抱くのだという柴田先生に拍手を送りたくなりました。

空間全部が学びの場。東成瀬小学校の学習空間

体験授業の後は、東成瀬小学校の校内ツアーです!

日本全国の小学校で、児童一人当たりの図書費は年間平均1,400円。それに対して東成瀬小学校の児童一人あたり年間図書費は、なんと6,000円にも上ります。

校内には、立派な図書室もありますが、図書室まで行かなくても廊下や階段の踊り場、それぞれのクラスの中にも村の図書館司書や担任の先生が選んだ本が並びます。学校生活のなかで常に本に触れられるような工夫です。

授業で習ったことの応用問題に子どもたち自ら挑戦するのが「チャレンジピック」。毎月、算数・理科・国語のなかから1教科、学年に合わせた問題が掲示されます。参加は自由ですが、多くの子どもが楽しみながら挑戦するそう。ずらりと並んでいる名前は先月のチャレンジピック正解者の児童たちです。

東成瀬小学校で力を入れていることが、「考えること、そしてその考えをしっかりと書く」ということ。それを補う役目を持っているのが毎日の家庭学習です。子どもたちは、各自家庭学習ノートを用意し、毎日自分で教科やテーマを決めて、家でもしっかりと学習に取り組みます。

「学年×10+10」を目安にしているという家庭学習時間は、1年生の20分から6年生の70分まで。実際に子どもたちのノートを見せてもらうと、綺麗な字で書かれた文字がノートの端から端までぎっしりと埋まっていました。

家庭学習では、4人グループを作り、家庭学習を交換日記のように友達同士で回しながら学びあうスタイルを取り入れることもあるそうです。

「ぐるぐるノート」と呼ばれるこの家庭学習スタイルは、子どもはもちろん、保護者の方にとっても自分の家庭以外の子どもたちがどんなふうに家庭学習を進めているのかを見られる貴重な機会。客観的に自身の成長や学びを見つめ直します。

廊下には、さまざまな展示があり、なかには、よく書けている算数ノート・理科ノートを教科・学年ごとに展示しているコーナーがありました。友達のノートは普段なかなか見ることがないもの。こうした展示は、お互いに「学びあう」ことを目的としているそうです。

机に向かう学習ばかりではなく、地域に根付く伝統行事を子どもたちに残そう、という取り組みにも力を入れている東成瀬小学校。地域の方を先生として招き、毎月のように行われる伝統行事体験を子どもたちはとても楽しみにしているそうです。

子どもたちが毎日学校に出入りする昇降口に貼られているのは、全校生徒102人の将来の夢。将来のビジョンを常に考えながら日々学べるようにという先生方の願いが込められています。

みんなで学びあう、が実現する学校

東成瀬小学校の探究型授業体験と校内ツアーを終えた親御さんからは「自分が知っている小学校のあり方とは全く違って面白かった」「こんな学び方ができる東成瀬小学校の子どもたちが羨ましい」「公立の学校とは思えない」などさまざまな感想が聞かれました。

授業はもちろんですが、今回驚いたのが校内の展示物。一般の小学校の展示物は習字や絵画などが多いのではないでしょうか。東成瀬小学校の展示物はノートや作文など、日頃の学習に繋がるものがメイン。そしてそれぞれに担任の先生や校長先生のコメントが赤字で書き込まれ、先生方が時間をかけて子どもたちの“学びの場”を作っていることがよく分かります。

子どもたちは、そういったノートや作文を日頃から目にすることで、掲示されることをモチベーションに努力したり、友達の良い学習方法を真似したりもできるはずです。

先生の熱い思いで作られている東成瀬小学校の学びの場。「みんなで学び合う」ということがここでは実現しています。

・ナナメ上いく教育オヤジキャンプ 県南コース vol.3へ

次回開催情報:

「秋田の教育ミートアップ!Vol.2」

9月16日〜18日に開催した、「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」には9家族27名の方が参加し、秋田の教育・子育て環境をさまざまな角度から体験しました。

今回のイベントでは、キャンプ参加者をゲストに招き、秋田という場所だからこそ実現できる教育・子育ての可能性を考えます。ゲストを交えた対話の時間はもちろん、交流会もご用意しておりますので、ぜひご参加ください!

【日時】2017年12月10日(日)13:00〜15:30 (受付開始12:30〜)

【場所】 TIP*S 独立行政法人中小企業基盤整備機構 (東京都千代田区丸の内2丁目5−1 丸の内二丁目ビル6階)

【ゲスト】
県北キャンプ 参加者 鈴木祐之さん
県南キャンプ 参加者 八塚裕太郎さん
ほか「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」参加者の皆さん

詳細はこちらから!

(写真/板橋充)