目まぐるしく変化し続ける社会の中で、どのような働き方や生き方を選ぶのかという問い直しが、今、あちこちで生まれています。時代の大きなうねりの中を生きていく子どもたちが、学び、育つ土壌や環境にも、きっとこれまでにないスタイルが生まれているはず。
住む町や通う学校といった日常からちょっと離れて過ごす3日間の「ナナメ上いく学びの世界冒険キャンプ」は、未来の可能性を実際に体験してみることで、これからの学びを考える絶好の機会。
キャンプが開催された秋田県五城目町は、秋田市に隣接する人口約9,700人の小さな町。美しい山々と田園に囲まれ、稲作がさかんな地域です。移住して起業する若者や家族連れでの移住者が増えている五城目町では、次々と教育に関する新しい取り組みが行われています。
教育水準の高さで知られる秋田県のなかでも、地域性を活かした教育やグローバルな学び、探究型学習など幅広い学びの機会が得られる五城目町で、”ナナメ上いく”学びの世界への扉が開かれました!
東京から秋田県五城目町に出発!
キャンプ当日、関東から参加する子どもと親御さんは、朝9時に東京駅に集合し、約4時間かけて新幹線で秋田駅へ!車内で駅弁ランチを楽しみ、初対面だった子どもたちも車内でアイスブレイクし、仲良くなりました。
親御さんに参加の目的を聞いてみると、「一般のキャンプでは自然体験が主になるけれど、このプログラムでは自然に触れるだけでなく、地域の人と交流したり地域の文化を学ぶという体験もできるのが魅力」とのこと。「兄弟が少ないので、様々な地域から集まる違う年齢の子どもたちと一緒にいる時間をつくりたかった」という理由もありました。
秋田駅からバスで移動すること1時間、キャンプの舞台である五城目町に到着!会場は廃校となった小学校を活用したシェアオフィス・通称「Babame Base」。13社の企業が集い、田舎発の新しい仕事=土着ベンチャー(ドチャベン)が生まれ続けている、活気あふれる場所です。この流れの中で起業家やファミリー層の移住が増えているのも五城目町の特徴のひとつ。
参加者は東京からの子どもたちが10名、五城目の子どもたちが4名。都会と地方、ふだん全く異なる場所で暮らしている子どもたちが同じ空間で学びあい、交流しました。
最初は緊張気味だった子どもたちも、床や机、椅子に木が使われたぬくもり溢れるスペースにテンションが上がり、すぐに鬼ごっこを始めて仲良くなりました!
地域ぐるみで子どもに学びを
「ようこそ、五城目へ!」
ハバタク代表・丑田俊輔さんの元気な挨拶でキャンプ初日がスタート!丑田さん自身、Babame Baseにオフィスを構えています。
「この地図のなかで秋田はどこかな?」
「みんな、なまはげって知ってる?」
今回初めて秋田に来た子どもたちがほとんどなので、秋田がどんな地域なのかを説明。
「五城目は山も川もきれいな自然の美しいまちです。キャンプでは僕たちスタッフだけではなく、町のお兄さんお姉さん、おじいちゃんおばあちゃんなどいろんな人と一緒に学んでいきます。楽しい三日間にしましょう」
参加する子どもたちの多様性を理解しあう
最初のプログラムは「多様性あふれるチームに触れる」。まず参加する子ども同士でお互いを知り合い、仲を深める時間です!
◉あいこでハイタッチ!
2人組でじゃんけんをして、あいこになったらハイタッチをする「あいこでハイタッチ!」で声を出し雪で冷たくなっていた体を温めます
◉英語で自己紹介をしよう
自己紹介タイムはなんと英語で!実は、五城目小学校では毎年、日本で最もグローバルな大学の一つ「国際教養大学」の留学生10数カ国との交流授業「ごじょうめで世界一周」が行われています。五城目は田舎なのに国際的という、「グローバルイナカ」なんです。
英語が堪能なスタッフのゆきさんが先生となり、まず英語で挨拶の練習です。
「Hello!」
「How are you?」
「I’m fine,thank you!」
英語を習ったことがある子はほんの数名でしたが、みんな名前と年齢の質問と答え方を英語で練習。
2人組になって「What’s your name?」「My name is ○○○」と自己紹介したあと、「Rock ,Paper, Scissors, Go!」でじゃんけん!負けた子は勝った子の肩に後ろから手を乗せて列車をつくり、最後にみんなで一列に。
◉きょうつうてんをさがそう
まだ一回も話してない子と2人1組になって自己紹介。住んでいる場所や好きな食べ物、アニメなど、5分以内に自分と相手の共通点を3つ探します。
「好きな果物はなに?」
「いちご!」
「あ、一緒だ。」
「好きな動物は?」
「レッサーパンダ!」
すぐに見つかって意気投合する子たちもいれば、なかなか見つからない子たちも。最後に残ったチームには、「じゃあ好きなゲームは?」と他の子どもたちも質問を投げかけてサポートします。最後に一組ずつ前に出てきて、自分と相手の共通点を発表!
「髪の毛をひとつにまとめてる」という見た目の共通点や「同じ時期にハムスターを飼ってました」という、ちゃんと互いに話をしないと見つからない共通点を見つけた子たちもいました。
◉ペーパータワー大作戦
3人組でチームをつくり、新聞紙で7分以内に一番高いタワーを作ったチームが勝ち!折りたたんだり、ねじったり、細かくちぎったり。どのチームもそれぞれのやり方で、話し合うよりどんどん手を動かしてタワーをつくっていきます。
中には人に新聞紙を巻きつけるという斬新な方法を思いついたチームも!残念ながらルール違反で一番にはなれませんでした(笑)
一位は土台をしっかりつくったあとに、ねじった新聞紙で高さを出したチーム!
これはチームの作業を通して、協働体験やチームワークを学ぶことを意図としたプログラムです。チームによってやり方に特徴が出るので、ひとつの問いに対して複数の答えがあるという「多様性」を学ぶことにもなります。
わらしべ塾体験!みんなでだまこ鍋をつくろう
次のプログラムは五城目町民が先生となり、地域の小中学生に華道や絵画、スポーツなどを教える「わらしべ塾」による学びの時間。大人たちが得意分野を生かして、毎月10回程度、100講座以上ものラインナップで運営されています。
今回は、地域の郷土料理「だまこ鍋」を広める米消費拡大地域活動推進委員会のみなさんが勢ぞろいして授業をしてくれました!
だまこ鍋とは、つぶしたご飯を丸めた「だまこ」を鶏肉のダシで新鮮な野菜と煮込んだ家庭料理です。子どもたちは目の前に並べられた食材に興味津々!
委員会のみなさんが下ごしらえをしてくれた食材をつかって、地域で長い間愛されてきただまこ鍋を子どもたちがつくります。
ここで防寒着を着てヘルメットをかぶり、草で編んだカゴを提げ長靴を履いたおばあちゃんが登場!
「いま山さ行ってきたの。何か落ちてきたとき頭に当たるとだめだからヘルメットかぶるの。あと長靴も雪で滑らないように縄を巻いてるんだよ」
この姿そのものが都会の子どもたちにとっては新鮮!食材を誰がどのように収穫しているのかを知ったあとは、鍋に使われる食材を丁寧に説明してもらいます。
「こっちが鶏のお肉で、こっちが煮干し。ここからダシをとって、料理にいれるんだよ」
普段自分が食べている料理がどんな食材からつくられているのか、ダシは何でとっているのか。すでに出来上がった料理だけを食べていると、なかなかわからないことです。
おばあちゃんたちの指導のもと、地元でつくられたお米をつかった温かいご飯をすり鉢でつぶし、小さく丸めてだまこづくり。包丁をつかってネギやしいたけなど野菜を切るチャレンジ!みんなで協力して調理するのも、子どもたちにとってはいい経験になります。
実際に自分の目で見て、調理をしながら学んでいく。これは最高の「食育」ではないでしょうか。
だまこをつくり、野菜と一緒に出汁でぐつぐつ煮込み、ついにだまこ鍋が完成!自分たちでつくっただけあって、美味しさもひとしお。
夕ご飯を終え食器を片付けたあと、夜のお楽しみタイムにはギターを抱えた先生が登場!みんなで歌の時間を楽しんだあとは、子どもたちは全員一緒に公民館に宿泊しました。
編集:モリジュンヤ
執筆:工藤瑞穂