(デザインビジネスマガジン『designing』より転載)
2018年2月9日、渋谷にあるTECH PLAYオフィスにて、『スタートアップにCXOが必要な理由 – CXO Night#2 by TECH PLAYデザイナー部』が開催された。
CXO Night(旧・CDO Night)は、昨年10月の開催に続き、今回で2回目。「スタートアップで奮闘するデザイナーを集めて、マネジメントの課題や実用的なノウハウを共有するコミュニティ」を目指したイベントだ。
今回は第一線で活躍している若手、シニアがパネルディスカッション形式で登壇。スタートアップにおけるデザイン役員の重要性、マネジメント、事業作りにおけるデザイナーが果たすべき役割について語っていく。
イベントは全3セッション。2つ目のセッションのテーマは、『デザイナーとして経営に関わる』。
デザイン&ライフ代表取締役・池田拓司氏、Onedot CCO坪田朋氏を迎えセッションが行われた。本記事ではセッション内容からいくつかのパネルをピックアップし紹介していく。
登壇者
池田 拓司(@tikeda)
デザインアンドライフ株式会社 代表取締役 デザイナー/株式会社トクバイ 取締役
ニフティ株式会社、株式会社はてな、クックパッド株式会社を経て、2017年4月に生活がよりよくなるサービスをデザインしていきたいという思いからデザインアンドライフ株式会社という会社を設立しました。
坪田 朋(@tsubotax)
Onedot CCO / Basecamp CEO
livedoor、DeNAなどで多くの新規事業立ち上げ後、UI/UXデザイン領域を専門とするデザイン組織の立ち上げ。現在は、BCG Digital Venturesにてデザインシンキングを使った新規事業開発業務で立ち上げたOnedotにCCOとして転籍。
経営とデザインの距離を近づける意味
DeNAでデザイン戦略室を立ち上げた坪田氏と、クックパッドでユーザーファースト推進室を立ち上げた池田氏。セッションは、社長直下のデザイン組織を立ち上げた二人による、それぞれの経験から組織を作る意味、経営者の距離についての議論から始まった。
坪田朋氏(以下・敬称略):池田さんは、クックパッドでデザイン部署の立ち上げを担当されていますが、会社にデザインの重要性を理解してもらうきっかけは何かあったのでしょうか?
池田拓司氏(以下・敬称略):僕はクックパッドに、メディア事業部の一デザイナーとして入社しました。そこからデザイン部を経てユーザーファースト推進室を経て、執行役という流れなのですが、僕は基本的に経営として進みたい方向に、どうデザインをアラインさせていくかを大切にしていました。そういう意味では、クックパッドの経営陣はデザインの重要性を理解していたと認識しています。
坪田:なるほど、では事業部はどのような経緯で立ち上がったのでしょう?
池田:部署の変化の背景には、経営の多角化という方針がありました。事業を広げていくために、サービスを増やさなければいけない。そのときサービスを増やすということは各事業部にデザイナーを付けるかという話になったのですが、そうではなく、デザインを1つの事業部にし、力を合わせてやっていくという方向に舵を切った。故に単独事業部化した流れです。結果、社長直下の部署としてユーザーファースト推進室が生まれました。
坪田:社長直下になる前後で変化はありましたか?
池田:劇的な変化というのは無かったと思います。それ以前のメディア事業部のころから2週間に1回程度社長とMTG時間をとっていて、デザインと経営の距離が遠くない状況でした。なので劇的にというよりはスムーズにシフトしていった形でしたね。
坪田:それは素晴らしいですね。ぼくの場合はその変化を大きく感じました。デザイン組織を社長直下で作る前までは、事業部の中で役割を担っていたので、その事業のKPIで業務を担わないといけなくなります。
社長直下の独立部隊にすると、事業とは異なるKPIを用意することもできますし、意思決定も独立なので、圧倒的な速さでできるようになる。特にメガベンチャーの場合は、これはとても大きな効果がありました。そういう意味で、経営者との関係値を作っていくことは大切だと思っています。
組織に求められる、デザイナーの評価軸
続けて、デザイン組織において重要となる仕組みについて議論が行われた。中でも二人が共通して必要性を感じたものは、評価制度だったという。
池田:組織を作る前、僕は人事などと密に連携しつつ、5軸からなるデザイナーの評価制度を作りました。
・エモーショナル(ビジュアルデザイン)
・わかりやすさ(ユーザービリティ)
・技術(テクニック)
・スピード
・影響力(仕組みを作る力・チームをドライブさせる力)
この評価軸は、少なくとも私が退職するまでは使われ続けていましたし、僕自身ずっと大切にしている軸で、今の仕事でも活かしています。
坪田:僕も近しいところで、評価制度を変えたのは大きな意味があったと思っています。DeNAは数字ドリブンの企業だったこともあり、気がつくと、デザイナーがABテストの数値結果を評価シートに書くようになっていたんです。つまりBizDev側から評価を得られる定量的な判断基準になっていた。
しかし、目先の定量的なデータだけで判断できないデザインがあるわけで、このままでは数年後のデザインスキルがやばいと思い、数値面は評価しないとし、サービスの評価とデザイナーの評価を完全に分離しました。
経営を学べるメンターと機会を見つける
3つ目のパネルでは、経営に関わるために学ぶべきことが語られた。無論経営について勉強する機会をもつという話が出る中、必要なのはメンターなのではないかという議論も広がった。
池田:機会の面で言うと、自分から学ぶというものがあれば、与えられたチャンスをしっかりと掴んでいくという手もあると思います。僕の場合、別に役員になろうとしてなったわけではありません。ただ、当時経営会議とかに徐々に出るようになり、その場で「この会社、いくらだったら買う?」ときかれたんです。
といわれても全然わからないですよね。笑 これまで事業レベルで事業企画書みたいなものは書いたことはありましたが、視座が足りなかった。そこで、こんな機会はまたとないと思い勉強しましたね。
坪田:当時の経営メンバーに機会を貰って成長してきたということですね。
そういう意味ではいいメンターを見つけるのは良いことかなと思っていて、PLとか人事労務とか、マネジメントとして経営的視点で回答して欲しいと言われた時に、勉強しないといけないことはたくさんある。ただそれを聞ける人が居ればいいと思うんです。
僕の場合は事業部長から教わりましたが、社内にいい人がいなければ外部パートナーを連れてきて一緒に作ることもできる。他にも、ある程度の規模のスタートアップであれば経営者と話す機会もあるでしょうから、デザイナーのキャリアとして、経営を学ぶ機会をどこかで作るのもひとつの手だと思いますね。
CXOになりたければ、まずは手を動かせ
最後のパネルでは、CXO/CDOになるためにまずやるべきこと——。これには二人共通した回答が得られた。
池田:一番やらなければならないのは“デザイン”でしょう。
逆説的ですが、CXO/CDOがいなくてもいいデザインだなと思うサービスや事業には、必ずいいデザイナーがいる。まずは良いデザインを生み出せるスキルを磨くことが何よりも大切だと思っています。
坪田:池田さんは、ご自身の中でプレイヤーと経営者のバランスはどのようにキープされていらっしゃいますか?僕自身、手を動かすことが無くなってしまわないようDeNAの時も1サービスは必ず持つようにしていました。
池田:いまでも結構手を動かしていますよ。そもそも僕は手を動かすのが好きなので、時間や曜日を分けてでも動かすようにしています。サービス内容や領域によって必要となるデザインは全く異なりますし、1つをしっかりと理解しようと思うと時間もかかる。けれど、深く入らなければ大きな変化は起こせないと考えています。
坪田:僕は去年1年は中国で会社の社長をやっていたこともあり、ほとんど手を動かしていませんでした。ビジネスの面では1年間で数多く学ぶことができたのですが、やはり手を動かしていないことの影響はありますね。
これが3年とか続いてしまうともう手が動かなくなるだろうなと改めて思ったので、時間を割いてでも手を動かすことが大切だと思います。
参考資料
お二人が構築してきたデザイン組織に関するお話をより深く知りたい場合は、以下に目を通すことがオススメ。
池田氏
・デザイナー横断組織の変遷|Cookpad Developers Blog
坪田氏
・デザイン組織を作って実行したこと|Speaker Deck
・スタートアップのデザイン責任者がやるべきことまとめ|tsubotax
(デザインビジネスマガジン『designing』より転載)