2017年9月16日〜18日に秋田県で行われた「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」の県北コースをレポートしています。

多様な価値観が広がる現代で、未来を担う子どもたちはどんな環境で学び育つのが良いのでしょうか?親世代である私たちも、自らの暮らしや仕事などを、考え直す必要があるのかもしれません。

普段の暮らしから離れた場所で新しい体験をしたり、少し立ち止まって考えてみたりすることで、何か発見があるかもしれない。今回は秋田県の大自然の中で開催した、3日間親子で参加できるキャンプのレポートをお届けします!

県北と県南、2つのコースがあるうちこちらの記事では県北の様子をレポート。教育水準の高さで有名な秋田県ですが、県北のキャンプのプログラムは船の見学や沢歩きを始め、自然の中での体験学習も盛りだくさんでした。自称「世界の教育県・秋田」にて、自然を思いっきり楽しむ、そして学ぶ「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」がスタートです!

東京から秋田県北部へ出発!

キャンプ当日は、朝7時ごろ東京駅に集合しました。今回県北のキャンプに参加する親子は5組16名です。まだ少し緊張した様子の子どもたち。親御さんと一緒に新幹線に乗り込み、秋田へ出発です!

約4時間の道のりの途中、なんと前を走る列車が熊に衝突したため遅延するというハプニングが!秋田ならではの事件に、車内では参加者の方々も驚きの声が上がっていました。遅れること約1時間ほど・・ようやく秋田駅に到着です。

秋田駅からバスで移動中、参加者同士の自己紹介が行われました。子どもたちは緊張しているのか口数が少ない中、親御さんたちが今回のキャンプに参加する意気込みなどを話します。

「自分が育った場所に似ているように感じる秋田の地で、子どもに田舎体験を楽しんでほしい」「秋田を移住候補として考えていて、その第一歩として来てみました」などの声もあがっていました。

1時間ほどで、秋田杉を中心とした木材加工で栄えた町、能代市に到着。昭和12年に建てられたという歴史的建造物「旧料亭 金勇」の美しい庭園に面したお部屋で、お昼ご飯を食べました。

建物内には能代のお祭りで使用する灯篭も飾られていました。こちらは江戸時代後期から明治時代にかけて運行されていたそう。子どもたちも興味津々です。

見て、聞いて、触って、嗅いで、海の仕事を体験する

続いて向かったのは八森漁港。今回は普段なかなか接点がない“海の暮らし”をのぞいてみます。海の生物の勉強や市場の見学、漁師の仕事を教わったり、実際に船の見学などのプログラムを用意。

まずは市場の見学の前に、今回のキャンプを企画する合同会社G-experienceの松浦真さんから子どもたちへクイズの出題がありました。

「市場の中で一番長い名前のお魚はなんでしょう?出口で教えてくださいね。」

市場の中では魚介や海藻、惣菜などが売られていたり、水槽に魚が泳いでいたり。子どもたちの中には、こんなにたくさんの海の生物が売られているのを見るのは初めてだという子もいました!

市場の中では魚介や海藻、惣菜などが売られていたり、水槽に魚が泳いでいたり。子どもたちの中には、こんなにたくさんの海の生物が売られているのを見るのは初めてだという子もいました!

市場では魚の解体も行われていました。じーっと見つめる子もいれば、中には「美味しそう!」とはしゃぐ子どもも。普段なかなか見ることのない世界、子どもたちは時間いっぱい楽しんだようです。

市場を出たらクイズの答え合せ。「ダテイワナ!」「ホンメジマグロ!」と発見した魚の名前を発表する子どもたち。一番長い名前だったのは8文字の「ブラックタイガー」でした。

そこへ、玄辰但馬丸の船長を務める山本太志さんの奥さん、山本瞳さんが登場。漁師のお嫁さんなので「よめこさん」と呼ばれているそう。

八峰町で暮らす小学5年生の男の子も加わって、一行は海の方へ歩いて玄辰但馬丸まで向かいます。

東京とは違う光景のこの町での暮らしが気になる様子で、ここ秋田で暮らす男の子に話しかけている子どももいました。はじめは緊張している様子でしたが、同じ小学5年生であることや、髪が短いという共通点をもとに、だんだんと仲良くなっていきます。

「いつもどこで遊んでいるの?」
「うーん、海で泳いだりする。この前泳いでいたら下にヒラメがいたんだよ。」

海に出て、玄辰但馬丸が見えてくると、一行からは思わず「おお〜!」と歓声が。船長の山本太志さんから、船に乗って見学をするための注意点3つが伝えられます。

「乗り降りが一番危険です。大人は子どもの手をとってあげてくださいね。船内は頭と足元注意!走らないようにね。エンジン室は生臭さもあるし、油もついているので、汚れに注意です。」

嬉しそうに船に乗り込む子どももいれば、怖がって親御さんの手をしっかりと握る子も。船に乗るのは初めての子どもがほとんどで、物珍しそうに網や柵を触っていました。

魚と一緒にヒトデも引き上げられるそうで、船の中にはたくさんのヒトデが落ちていました。

ここで松浦さんからのクイズです。

「この網は何メートルでしょう?」

「5メートル!」
「100メートル?」

答えの発表は船長山本さんから。なんと200メートルだそうです。1回でハタハタが1万匹ほど獲れるのだとか!

これには親御さんたちも驚いた様子。その後も船長の山本さんに、漁の工程をじっくり伺う方もいました。自然を相手に漁師として働く山本さんの姿は、子どもはもちろん親御さんたちにも新鮮に映ったようです。

子どもたちも少しずつ船の上に慣れてきたのか、皆で協力しながら船の上に上っていきます。この頃にはだいぶ打ち解けてきていて、親御さんの元を離れて子どもたちだけで行動する場面もありました。

普段はなかなかお目にかかれない、エンジン室もいざ見学!狭い階段を登って降りて、小さな入口をくぐって・・ようやくたどり着きました。暗くてオイルのにおいが漂うエンジン室を、物珍しそうに眺める子どもたち。

船を降りてからは、秋田の子育てや教育について、14年前に秋田へ移住し、現在は小学校に勤めているという梅田さんからお話を聞きました。

秋田県は教育を始め子育てに関わること全般に力を入れています。特にここ八峰町は、全国でもトップレベルで情報通信技術(ICT)を教育で活用する、ICT教育が盛んな町。現在すでに電子黒板やデジタル教科書などの普及が進んでいる中、今後もプログラミング教育の導入を予定しているのだとか。

「子どもは町の宝だから、みんなで育てるという方針なんです。」

話終えた梅田さんへはたくさんの質問が。

「塾とかに行く子どもはあまりいないですか?」

「行かない子も多いです。もちろん個別に行く子もいますが、長期休みもフォローアップの授業を行ったり、町が費用を負担した町営の塾も運営したりするので、たくさんの方に利用してもらっています。」

熱心に話を聞いていた子どもからも質問があがりました。

「田舎だけど、学校は何個ありますか?」

「小学校は2つ。全学年1クラスで、だいたい1クラスに生徒は10〜30人くらいです。中学校は1つで、特別支援クラスもあるので1学年2クラスあります。少人数なので比較的目が行き届きやすいんです。」

他にも、海や山をはじめとする、八峰町の大自然を全て教育に生かそうという考え方で、資源を目一杯使った学校教育が行われているそう。例えば森の中での学習や、今回のプログラムのような船を見学など。行政を始め地域の人々も学校に協力的で、交流も盛んだということも印象的でした。

バスへ戻る道中、「早く秋田にこようよ!」と親御さんに話す子どもの姿もありました。

みんなの力を合わせて仲良くなる!ゲームプログラム

その後は10分ほどバスに乗り、本日宿泊をするあきた白神体験センターに!夕食までの間、大人チームと子どもチームに分かれて、ゲームの時間がはじまります。

「トム」ことキャンプスタッフの明神智久さんからゲームの説明がありました。最初はフラフープに全員で指を添えてゆっくりと上下させる「ヘリウムフープ」というゲームです。誰も指を離すことなく上下することができればクリア!

大人数で指をつけるとフラフープの重みが分散されることで軽くなり、つい無意識で手を動かしてしまうため、なかなか難しいようです。大人たちはスタートする時点での高さを合わせたり、何度も話し合ったりと、慎重に取り組んでいました。

一方、子どもたちはルールに縛られることなくとにかく楽しんでいます。失敗してもとっても楽しそうな表情!

次は「パイプつなぎ」というゲーム。パイプを一人ひとつずつ手に持ち、その上にボールを転がして、どんどんと次の人にボールを繋いでいきます。ゴールは全員が並んだよりも遠いところなので、単純に転がすだけでは到達できません。

「ボールを止めてはいけません。ボールを落としてはいけません。ボールは指に触れてはいけません。ルールは以上の3つだけです!」

大人たちはまず全員が集まって、どんな工夫ができるか意見を出し始めました。ボールをつなぎながら走ってみたり、ゆっくりと慎重につないでみたり・・・

子どもたちは話し合うことはなく、とにかくトライアンドエラーで挑戦をしています。隣の子と身長差がある時は少しかがんでみたりと、一人一人が個別に工夫をしている様子も。失敗してもこの笑顔。

後半になると大人たちの真似をして、全員が横並びになりボールをつなぎ、終わったら走って一番後ろへ並び、距離を伸ばしていくという作戦に。だんだんと子ども同士でアドバイスを投げ合うようにもなっていました。

「もっと近づいて並んだ方が良いよ」
「そこ気をつけて!」
「緊張するなあ」
「大丈夫だよ!」

今日初めて出会ったけれども、一緒にゴールを目指し切磋琢磨したことで、チームワークが生まれていました。ゲームが終わる頃にはすっかり仲良しに。

「何年生?」
「4年生!」
「ふーん。ぼくは3年生!」

ゲーム終了後は親御さんたちの元を離れて、子どもたち同士で話しながら宿へ戻って行きました。

親御さんの手を離れて絆を育む

1日目の宿の部屋割りは子どもと大人で分かれていました。子どもたち全員と、スタッフの明神さんが同じ部屋です。ゲームを通して打ち解けた子どもたちは、部屋に戻っても元気いっぱい。

入浴とご飯を済ませたあとは、子どもたちだけの紙飛行機とばし大会が開催されました。オリジナルの折り方で紙飛行機を作る子ども、本に書いてある折り方を習得する子どもなど、楽しみ方は様々。

後半は、折り方が上手な子が皆に教える姿もありました。「どうやったら飛ぶんだろう?」いろいろ試行錯誤を重ね、何度も折り直しをしながらそれぞれオリジナルの紙飛行機を、思いっきり飛ばします。

この時間、別室では親御さんたちが集まり、ワークショップを開催。まずは2人1組で「人生で最も頑張ったことや輝いていた瞬間」というテーマで話をします。その後、4人組となり、今度は自分ではなく、先ほど話を聞いた人の紹介を行いました。

「学生時代スポーツで県大会に出場したこと」
「奥さんが体調を崩した時に、仕事と家事、子育てを一人でこなしたこと」
「進学、就職、子育てとそれぞれに熱意を持って取り組んだこと」

などなど、それぞれの思いが語られました。

ゲームで育んだチームワークに加えて、ワークショップでそれぞれ熱意を持って取り組んだことを共有することで、親御さんたちも子どもたちに負けないような、特別な関係性を築いているようにも見えました。ワークショップ後もほとんどの方が部屋に残り、「子育てで悩んでいること」「移住について」など、様々なことをお話しする様子も。

「これまでなかなか“パパ友”のような存在がいなかったけれども、今日は思いっきり子どものことが話せて楽しいです。」と話すお父さんもいました。

その頃、子どもたちは就寝準備。親御さんたちがいなくても、子どもたちだけでちゃんと進めます。年上の子が小さい子の手を引いて歩く姿もありました。

都会から離れたこの秋田という場所。自然の中での特別な経験を通して、たった1日の間でも、子どもも親御さんもしっかりと絆を育んだようです。

・ナナメ上いく教育オヤジキャンプ 県北コース vol.2へ

次回開催情報:

「秋田の教育ミートアップ!Vol.2」

9月16日〜18日に開催した、「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」には9家族27名の方が参加し、秋田の教育・子育て環境をさまざまな角度から体験しました。

今回のイベントでは、キャンプ参加者をゲストに招き、秋田という場所だからこそ実現できる教育・子育ての可能性を考えます。ゲストを交えた対話の時間はもちろん、交流会もご用意しておりますので、ぜひご参加ください!

【日時】2017年12月10日(日)13:00〜15:30 (受付開始12:30〜)

【場所】 TIP*S 独立行政法人中小企業基盤整備機構 (東京都千代田区丸の内2丁目5−1 丸の内二丁目ビル6階)

【ゲスト】
県北キャンプ 参加者 鈴木祐之さん
県南キャンプ 参加者 八塚裕太郎さん
ほか「ナナメ上いく教育オヤジキャンプ」参加者の皆さん

詳細はこちらから!

(写真/馬場加奈子)