メルカリ・サイボウズのインハウスエディターが語る、会社のブランドを編集するという仕事 #inquire_event

企業が主体となって運営する「」がここ数年、活況を呈していましたが、2018年末〜2019年にかけて、オウンドメディア閉鎖のニュースを目にすることも増えてきました。一方、ファンとのコミュニケーションを促進するためのメディアや質の高いコンテンツを配信し続けるメディアは現在でも多く存在します。

9月2日に行われた『オウンドメディア「ブーム」の終焉と、編集者たちの「その後」のキャリア vol.1』では、短期的なトレンドで終わらず「企業のメディア化」は今後も進んでいくことを踏まえた上で、オウンドメディアの位置付けや企業経営の事業運営における創出価値について整理し、その中での編集者の役割の変化について議論しました。(vol.1のレポートはこちら

同テーマでのイベント第二弾となる今回は、企業の中で働く編集者に求められる資質や、オウンドメディアに留まらないさまざまな役割について考えます。

登壇したのは編集デザインファーム株式会社インクワイア代表のモリジュンヤ、サイボウズ株式会社 サイボウズ式編集長 / コーポレートブランディング部 副部長 藤村能光さん、株式会社メルカリ Corporate Communications / Editor 西丸亮さんの3名。

鼎談に移る前に、それぞれの自己紹介を兼ねたプレゼンテーションや編集者として必要なスキルなどについて話されました。

編集のスキルや価値は、メディア運営に限定されない

ー1人目のゲストは、サイボウズ株式会社にて、オウンドメディア「サイボウズ式」編集長を務め、コーポレートブランディングやHRマネジメントも担う藤村さん。藤村さんはマーケティングコミュニケーションやコーポレートブランディング、メディア運営と様々なキャリアを経て、他分野と掛け合わせながら編集の力を発揮していったことを語られました。

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藤村能光
サイボウズ株式会社 サイボウズ式編集長 / コーポレートブランディング部 副部長 大学を卒業後、ウェブメディアの編集記者などを務め、サイボウズ株式会社に入社。製品マーケティング担当とともにオウンドメディア「サイボウズ式」の立ち上げにかかわり、2015年から編集長を務める。メディア運営や編集部のチームビルディングに関する講演や勉強会への登壇も多数。複業としてタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」のオウンドメディア運営支援にも携わる。著書に「未来のチームの作り方」がある。

藤村さん:僕の前職はウェブメディアの編集で、コンテンツの制作を約4年間行なっていました。その後、サイボウズに入社し、最初に担当したのはマーケティングです。それから順番に「サイボウズ式」を中心とするメディアの企画・運営、コーポレートブランディングを担当し、現在は編集チームのマネージャーとして組織運営と人材の成長支援全般を担っています。今ではコンテンツ企画の仕事の比重はかなり少なくなっています。

僕のキャリアは、編集スキルを持った人間がマーケティングやブランディングなどの他分野を80点くらいで経験していくといったものでした。プレイヤーとして僕自身が、1人でものすごく良いコンテンツを作ったり、突き抜けたスキルを持ち合わせてたりしているわけではありません。編集スキルと他分野のスキルを掛け合わせながら、自らの希少価値を高めてきたタイプだと思います。

僕の軸となった編集というスキルは、「編集力」と「人間力」という要素にわかれるなと思ってます。特に人間力は事業会社で働く上で重要な側面です。仲間やチームをどれだけ巻き込めるかや、会社に関わっている人たちを観察し、どんな企画が作れるかが問われます。

ー続いて2人目のゲストである西丸さんは、オウンドメディア以外にも会社のカルチャーや世界観に触れる機会は多くあり、オウンドメディアは情報発信の一手段だということを語りました。

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西丸亮(Ryo Saimaru)
株式会社メルカリ Corporate Communications / Editor 福島県出身。中央大学大学院公共政策研究科修了。新卒で株式会社スマイルズへ入社し、店舗運営や社内報の運営・執筆に携わる。その後、株式会社CINRAに転職。クリエイティブ業界の求人サイト「CINRA.JOB」など、企画・編集に従事。2018年、株式会社メルカリに入社。オウンドメディア「mercan (メルカン)」の運営や採用スローガンのライティングなど、「人」や「採用」に関わるブランディング業務を担っている。

西丸さん:現在は「メルカン」をはじめとしたオウンドメディアの運用や、採用・コーポレートのブランディングを担当しています。僕たちのチームのミッションは「メルカリに関わる人にまつわる情報を発信し、世界から注目される企業になること」です。経営陣や現場のメンバーとキャッチボールしながら、社外に伝えたいメッセージを言語化したり、採用サイトのインタビュー動画やスローガンを制作したり、ときにはイベントの登壇など、様々なことを行なっています。

企業がオウンドメディアを運営するメリットのひとつとして、「採用」への貢献が挙げられます。ですが、必ずしもみながオウンドメディアという媒体を通って入社するわけではありません。優秀な人材を獲得し、その人が入社後に活躍してくれれば、採用活動としては目的達成です。その過程にオウンドメディアという存在がありますが、入社のきっかけは他にも数多く考えられます。プロダクトの世界観かもしれないし、メンバー個人の情報発信かもしれない。

採用においてはオウンドメディアは会社のミッションを達成するための一手段でしかありません。オウンドメディア「ブーム」は終焉したわけではなく、必要に応じて企業が他の手段も選ぶようになったというだけだと思います。

そもそもオウンドメディアを閉じる原因は、企業によって様々です。メディアとしてのミッションを達成したから閉じるというポジティブなパターンもありますし、企業や組織の方針が変わったことで閉じることもこともある。一概に「ブーム」や「終焉」といった言葉では表せないなと思いますね。

ー3人目の登壇者はインクワイア代表のモリジュンヤです。モリは西丸さんの「オウンドメディアブームは終焉しておらず、企業が違う手段をとりはじめただけ」という意見に賛成しつつ、様々な目的・性質のメディアがオウンドメディアという言葉だけで包括されている現状を指摘しました。

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モリジュンヤ
株式会社インクワイア代表取締役 / UNLEASH編集長。1987年岐阜県生まれ。2010年より『greenz.jp』にて編集を務める。フリーランスとして独立後、『THE BRIDGE』などの編集を経験。2015年にinquireを創業。NPO法人soar副代表 / IDENTITY共同創業者 / FastGrow CCO など。

モリ:事業会社が自ら情報発信をするということ自体がなくなろうとしているわけではなく、むしろ積極的な取り組みが増えていっています。ただし、継続のためにはメディア運営の目的を整理し、目標を設定し、体制をつくっていく必要があります。「オウンドメディア」と呼ばれるメディア群も、一つ一つ見ていくと目的や運用方法はさまざまですが、大きく以下の3つに分けられると僕は考えています。

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ーまた、企業の中で編集者が出せる価値はオウンドメディア運営に留まらないと述べました。

モリ:企業の中で編集者が出せる価値は主に4つあると持っています。

一つ目はインハウスエディターとしての役割。事業会社に入って編集者をやっているからこそ、会社の新しい情報が掴めたり、スピード感を持って企画を作ることができます。しかし、社内のリソースだけではメディア運営は難しいでしょう。サイボウズ式のように適切に外部のライターさんなどの力をもらいつつ「いかに継続していくか」を考え、必要な施策を実行していくことが、インハウスエディターの大切な役割だと思います。

二つ目は、”編集外”からの編集への言及ということ。編集者ではなくても、セールスやブランディングにおいては、価値を言語化するための編集が問われます。しかし、編集者ではない人は、そのプロセスにおける編集の価値をイメージすることが難しい。編集者が編集者ではない人たちに向けて、編集の価値を具体的に言及していくことが重要なのかなと思います。

三つ目は、点から線のエクスペリエンスの時代への対応です。売って終わりの時代から、SaaSに象徴されるように、売った後でも顧客体験を損なわないことが重要なビジネスモデルが、主流になってきています。継続的に情報を発信したり、コミュニティを形成して顧客との関係を構築することが求められるビジネスにおいて、編集の貢献できる余地は大きくなっていくのではないでしょうか。

四つ目は、言語と非言語の文化を作るということです。それぞれの会社の目的がなんなのか、なぜ事業や会社が存在するか。言語以外にビジュアルや雰囲気といった非言語情報を含めて、企業文化は作られています。非言語の要素を言語化したり、非言語的なコミュニケーションを得意とするクリエイターと編集者が協働したりしながら、いかに文化を作っていくかは組織が成長していく上での重要な課題のひとつです。

メディアの成長とともに変化する編集者の役割

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ーそれぞれのプレゼンテーションが終わったあと、パネルディスカッションに移りました。

モリ:メディアが立ち上がったタイミングと現在では、副業の推進などといった社会情勢や、情報が届く人たちの多さに変化があったと思います。外部環境が変化する中で編集者の役割はどう変化していったと思いますか?

西丸さん:会社のどこに、どんな課題があるかによって編集者の役割は変化するなと思っています。

僕は去年の7月にメルカリに入社したのですが、メルカリ自体、最初から「メルカン」を中心とした情報発信をしていたわけではありません。実は、他にもTwitterやYouTube、noteなど、大小100以上のタッチポイント(メディアチャネル)が乱立していました。それは大きな問題だよねとなり、全社的に整理し、ガイドラインを設けはじめたのが、ここ最近の出来事です。これまでは会社のブランディングとして、どの情報をどのチャネルから発信することが最適なのか、という視点があまりなかった。その点も含めて全体を整理する必要があったんです。メルカリにいる編集者は、そういった視点や役割を担っていると思いますね。

また、本質的な役割は変わりませんが、会社や組織の状況に合わせて、仕事の幅や役割も広がってきているように感じますますね。特に採用などは、企業の成長フェーズによって打ち出すメッセージやコンセプトも変化してきます。そこに深く関われるのは、インハウスエディターの醍醐味と言えると思いますね。が

藤村さん:サイボウズ式では、「広く届ける」という意味では成果が出たのかなと思っています。次は情報を届けた人と、どういうコミュニケーションを取っていくかということを考えてます。例えば株主総会。サイボウズでは株を買ってくれた方々、すなわちサイボウズのビジョンに共感してくれている人たちと新しい価値を生み出したいと思っています。

会社の成長と共にメディアも成長し、役割も変わっていきます。

メディアが成長しても変わらない、編集者としてのスキル

西丸さん:会社やメディアが成長し、編集者としての役割が変わっても、編集者が考えるべきことは変わらないと思います。社会性、オリジナリティ、想い、ミッションをオンラインやオフラインを問わず伝えること。何を作るにしても、求められるスキルだと思っています。

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藤村さん:サイボウズでは、編集者だけではなくみなに共通して求められるスキルがあります。それは、「コンセプトを作ること」です。コンセプトとは「誰に、何をいってほしいか」を明文化し、企画に落としこんでいくことです。これは記事にかかわらず、会議の設定などあらゆる場面で応用されます。

その上で編集者に求められるスキルは、読者が何をしりたいかという「文脈」の中で伝える力だと考えてます。単純に読者がおもしろがってくれればいいではなくて、読者に関心を持ってもらって、どういう社会にするかというところを企画に結びつけられる力がとても重要です。記事が作れるかどうかは、あまり重要ではないと考えています。

変化が激しい中でどんな編集者が求められているか

モリ:結局どういう資質を持った人だと、事業会社で編集者として働けると思いますか?

藤村さん:ビジョンへの共感や理解は外せないです。会社やプロダクトのことが好きだというのはもちろんありますが、「好き」だけでは読者に伝わりません。一定の人にどういう表現で、どういう形で伝えるかという部分を編集できる人と一緒に働きたいですね。

西丸さん:藤村さんにほぼ同意ですね。ミッションへの共感と、それを届けるために大切にしているバリューが発揮できることは大前提です。あと、メルカリの場合は自律的に意思決定ができるので、意思を持って自走できるかどうか。そこが重要な気がします。

モリ:ビジョンへの共感はやはり重要ですね。ですがそれは、編集者以外の職種でも共通する要件だと思います。メディアの成長やビジネスモデルが目まぐるしく変化する中では、他にどういう資質が重要になってきますか?

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藤村さん:手段にこだわらない人が、自分自身を変化させることができるのかなと。会社の状況によっては、「記事を作ること」がかならずしも最適だとは限らないです。その時々の目的によって、最適な手段を選べられる人が変化に順応できるなと思ってます。

社会情勢の変化や、企業が成長する中で、編集者に求められるのは目的に合わせて自らを変化させ、その都度役割を定義して動いていくこと。企業単体ではなく社会全体の文脈を捉えて、いかに伝えたいことを顧客に届けていけるか。ゲストの藤村さん・西丸さんのキャリアは、企業で活躍する新しい編集者像を示してくれているように思います。

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今回登壇された藤村さんの著書「《働きやすさ》を考える メディアが自ら実践する『未来のチーム』の作り方」や、西丸さんがCorporate Communications Editorを務めるメルカリの創業と成長の軌跡を描いた「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」もぜひあわせてご覧ください。

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