当事者意識の持てる仕事を選ぶべき。ビジネスとデザインの越境に挑む編集者 小山和之

ロジカルなのに物腰の柔らかい人。

初めて彼に原稿の赤入れをしてもらったときに抱いた印象だ。論理のもつれた私の文章を鋭く編み直しつつも気遣いを忘れない態度が、どのコメントからも滲み出ていた。

「inquire」で複数のプロジェクトに携わる姿をみていても、その印象は変わらない。編集者やライター、時にはプロジェクトマネージャーとして果たすべき業務を的確に遂行する。組織内で彼が担う役割も着々と広がっているようにみえる。

次々に仕事を任される状況でも、常に落ち着いてやるべき仕事をやり遂げる力の源泉はどこにあるのだろう?日頃は聞き役になってくれる小山さんに、じっくり話を聞いてみたいと思った。

 

[プロフィール]

編集者。1989年生まれ。建築の意匠設計、Webデザインコンサル会社で、企業のコミュニケーション設計、オウンドメディアの企画・立ち上げ、編集等に従事。傍ら個人で編集者・ライターとして活動した後、独立。ビジネス・デザイン領域が専門。デザインビジネスマガジン“designing”編集長。

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建築からウェブへ軸足を移した理由


——小山さんは建築学科出身なんですよね。ウェブ界隈だと珍しいと思うのですが、なぜ編集やライティングに携わるようになったのでしょうか?

小山 大学生の頃から書いていたブログがきっかけです。ガジェットや服など、自分の好きなものを写真とテキストで紹介していました。続けているうちにアフィリエイトで多少の収入が得られるようになり、書いた文章に対して対価をもらう体験に少しずつ興味が湧いてきたんです。そこからガジェットやモノ系のウェブメディアで記事を書くようになりました。

ライターを始めた頃には、すでに建築事務所で働いていたので、編集やライティングを仕事にするとは思っていませんでしたね。

——ブログがきっかけだったんですね!その後ウェブ系のデザインコンサル会社に転職されていますが、どのような理由だったのでしょうか?

小山 建築としてアウトプットするよりも、ウェブ上で何かを生み出した方が、社会に与えた影響を体感しやすいと考えたからです。ウェブメディアで記事を書いていると、SNSなどを通して読者からダイレクトに反響が得られます。そういった瞬間に強いやりがいを感じている自分に気づいたんです。

きっと自分は提供した価値が直接的に感じられる領域の方が向いていると考え、ウェブ業界への転職を決意しました。転職先ではプロジェクトマネージャー、編集者、ライターとして多様なクライアントと仕事を経験させてもらいました。


答えのない問いに挑む“編集”を学ぶ


——すでに編集者やライターとして活躍されていたなかで、どのようにinquireに携わるようになったのですか?

小山 inquireの主宰するライティングコミュニティ「sentence」のスクールに通い始めたのがきっかけです。そこで他のメンバーやinquire代表のジュンヤさんと話す機会があり、少しずつプロジェクトに関わるようになりました。編集やライティングを体系的に学んだ機会がなかったこともあり、兼ねてからライターとして憧れていたジュンヤさんの下で経験を積める環境には強い魅力を感じましたね。

——少しずつ携わるようになったとのことですが、今では沢山のプロジェクトを担当されています。普段はどのような業務を行っているんですか?

小山 『AMP』や『Unleash』、『IDENTITY名古屋』といったメディアの運営・編集、『sentence』、あとはクライアント案件のライティングを担当することもあります。最近では、自社でメディア運営を行う企業向けに、編集体制の内製化を支援するプロジェクトにも携わっています。

——幅広いですね…。そのなかで特に印象的だったものはありますか?

小山 『AMP』の立ち上げですね。前職でもクライアント企業のメディアをローンチした経験はありましたが、メッセージ性が強く更新頻度の高い『AMP』のような媒体では全くやり方が異なります。土台となるコンセプトメイキングから、編集方針の策定、運用体制の構築まで。取り組むべき課題を一つ一つ解決していくのは、霧の中を全力で走っているような体験でした。

ただ、この時に「このメディアを通して社会に対してどのような価値を提供すべきか」という問いに向き合い、一つ一つのコンテンツを設計していった経験は、編集者やライターとしての視座を確実に高めてくれました。

——確かに完成されたメディアで仕事をしていると強く意識しない点かもしれませんね。ちなみに書き手として思い出深い仕事はありますか?

小山 『AMP』で書いた株式会社MATCHAの青木優さんの記事ですね。青木さんの中学生時代まで遡り、原点を紐解いていくストーリー形式の記事だったので、読者にどのように物語を読み込ませるのかを徹底的に考え抜く必要がありました。

情報を論理的に並べるのは比較的得意なのですが、一つ一つの言葉にも意味を込め、ストーリーを構築していく作業はかなり苦戦しましたね…。だからこそ記事が公開されてから偶然青木さんに会った際に、「あの記事よかったよ」とおっしゃっていただいたのはすごく嬉しかったです。

 

「なぜやるべきか?」を思考し続けた先で出会ったテーマ

——小山さんのように編集もライティングもプロジェクトマネジメントもできると、仕事が無限に降ってくると思うのですが、その仕事をやるかやらないかはどのように判断していますか?

小山 当事者意識を感じられるかどうかですね。社会にとって、自分にとって、その仕事をやる意義があるのかで判断しています。

どれだけ報酬が高くても社会にポジティブな影響を与えると思えない仕事は基本的に引き受けません。「これやって何の意味あるんだっけ?」と疑いながら仕事をするのは発注してくれた方に失礼ですし、自分も辛いじゃないですか。

——社会人なら一度は身に覚えがあるやつですね…。(笑)昨年末に始めていたデザインビジネスマガジン「designing」はまさに“自分がやるべき”だと感じられた仕事なのでしょうか?

小山 まさにその通りです。仕事でデザイン関連の取材をする機会が多かったのですが、「デザインの価値がビジネス側の人間に理解されない」という声を度々耳にするようになったんです。

例えばグッドパッチ代表取締役の土屋さんのインタビューや、彼がTakram代表の田川さんと登壇されていたイベントでも「デザインの価値をいかに社会へ伝えるのか」かが話題に挙がっていました。僕自身も建築界隈の人の発信が難解すぎたり専門用語が多かったりと、専門外の人に届きづらくなっているのをもったいないと常々感じていて…。

良質なデザインや価値創出のプロセスを、ビジネス側の人にもわかりやすい形で伝えていきたい。そうした情報と接するタッチポイントが増えれば、きっとデザインの価値が伝わるはず。こういった課題意識についてはジュンヤさんにも度々話していました。きっとこれが編集者として自分が取り組みたい領域なのだなと腹落ちして、昨年末にデザインビジネスマガジンを立ち上げました。

——仕事を通して取り組むべきテーマが明確化されていったんですね!他にinquireで働いて自身のなかで得た気づきや変化はありますか?

小山 情報への接し方が変わりましたね。「この情報をどのように解釈すべきか」や「どういう文脈に載せると面白く理解してもらえるのか」を常に意識して、情報に触れるようになりました。編集者は一つのトピックを多様な文脈から読み解き、提示する力が問われる。よくinquireでも言われていますが、まさに編集は「知の総合格闘技」です。そこで生きていくなら情報の量と質だけでなく、どう接するかという視点も欠かせないなと。

——「知の総合格闘技ってよく言ってる組織」と聞くと若干怖い印象を持たれそうなのですが、小山さんがこれまで属してきた組織と比べてinquireにはどのような特徴があると思いますか?

小山 合理性を持ち合わせた体育会系であるところでしょうか。日頃のインプット含めて必要だと判断した部分には一切妥協せず力を注ぐけれど、そのやり方が合理的かどうかは常に意識している。仕事の進め方から業務用ツールに至るまで、より合理的な方を選ぼうとしている気がします。相反すると思われがちな2つの要素が両立できているのは結構珍しいと思いますね。

——確かに両方の要素が混ざってる感じはしますね。ではどのような人が向いていると思いますか?やはり「体育会系かつ合理的な人」でしょうか?

小山 いえ、それよりも自律的に動こうとする姿勢があるかどうかの方が重要ですね。当事者意識を持てているかと言い換えられるかもしれません。

inquireはあまり細かくマネジメントしていないし、「〇〇時までに〇〇個つくってください」といった明確な指示より「〇〇な状態にしてください」という抽象度の高い指示をもらうことの方が多い。そうなるとゴールの設定やそこに至る方法は自分で見つけないといけません。

もちろん聞けば教えてくれる環境ですし、いわゆる“仕事のデキる人”でなくてもいい。けれど、どこで躓いているのかちゃんと意思表示する、課題を自らの力で解こうとする姿勢は求められると思います。

——確かに「どこまで何ができるか」が明確であれば、たくさんアドバイスをくれる環境ですよね。では最後に小山さん自身はどのような人と働きたいですか?

小山 好奇心のある人ですね。何か伝えたい対象があるときに、書き手は収集した膨大な知識から伝えるべき情報のみ抽出して、テキストに落とし込む必要があります。なので書き手は常に記事にアウトプットする以上の情報を集めてこなければいけない。

以前、建築家の谷尻誠さんにお話を伺った際、「一つの分野を突き詰めると、深堀りする筋肉がつく」とおっしゃっていました。そして何か他の分野について知識を身につける際にもその筋力が効果的に働いてくれると。

編集やライティングに携わるなら、確実にその深堀り筋を鍛えておく必要があります。そのプロセスを楽しめる人と一緒に働きたいですね。

語る口調は穏やかでも、解決したい課題や力を取り組みたい仕事について紡ぐ言葉の端々には、確かな熱がこもる。社会や自分にとって意義があると信じられる領域で絶えず手を動かし続ける彼もまた「合理的な体育会系」を体現しているように思えた。

ビジネスとデザインの交わる場所で彼が積み上げる発信が大きな変化の波を形づくる日も、決して遠くないはずだ。

(文:向晴香)
(フォトグラファー:金洋秀)


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