「副業解禁」という言葉をニュースで目にする機会がここ数年一気に増えたように思う。「会社員なら一つの組織にコミットしなければいけない」という価値観は少しずつ変化しつつあるようだ。

急に現れた「副業」という選択肢を前に、自分もやるべきなのか、興味はあるがどう始めればいいのかと、不安や焦りを感じている人も多いかもしれない。

inquireでは既存の価値観に縛られず活躍する若者の姿を通し、ビジネスやカルチャー、テックなどの多様な領域の“未来”を思考するイベント“future inquiry”を開催している。

第2回のテーマは「ミレニアル世代が考える、これからの“副業”」。自分らしく生きるために、あるいは今後のキャリアの「投資」として副業に取り組む25歳以下のゲストが集まった。

なぜ会社員として働きながら「副業」に取り組むのか、どのように本業と両立させているのか。ミレニアル世代が等身大の副業論を語った。

左から、モデレータの小山 和之さん、登壇者の大崎 祐子さん、城後 建人さん、梶川 奈津子さん、明石 悠佳さん。それぞれのプロフィール詳細は本記事の最後に掲載。

初めに4人の登壇者が、現在の本業と副業、後者を始めた理由について共有した。

明石悠佳さんは2015年にサイボウズ株式会社に入社。現在は自社メディア「サイボウズ式」の企画編集や企業ブランディングに従事する傍ら、副業でフリーランスの編集者・ライターとしても活動している。

明石さんが副業を始めたきっかけは、昨年11月にTwitterアカウントに届いたダイレクトメールだった。

明石さん:新卒3年目までは会社でしっかりスキルを培う期間にしようと考えていました。3年目の後半に差し掛かり、そろそろかなというタイミングで、大学時代から憧れていた方からお声がけいただき、副業を始めることにしました。

2人目の大崎祐子さんは、在学中からハヤカワ五味さんやきゅんくんといった若手クリエイターのマネージャーとして活動、2016年に大手IT企業に入社した。現在は事業戦略・ブランド推進部門に所属しながら、フリーランスで広報やブランディングに従事する。

大崎さんも、明石さんと同様に副業を強く意識していたわけではなかったという。

大崎さん:社会人2年目くらいにスタートアップで働く友人からプレスリリースの書き方を聞かれ、お茶をしながら軽くレクチャーしたんです。そしたらすごく役に立ったと言われ、意外とニーズがあるんだなと。

元々広報をやりたいと思って入社したものの、自分がいきたい部署に新卒で配属されることは大手ではほとんどありません。希望して異動する制度もあるのですが、それを使えるようになるには3年くらいの時間が必要でした。その間に何もできないのはもったいないと思い、Twitterで『副業でPRやってみたい』と呟いたら、仕事の依頼をいくつかいただいたんです。

3人目の城後建人さんはモバイルサービス会社を経て、現在は株式会社U-NOTEで人材系ウェブサービスのプロジェクトマネジメントや開発ディレクションを担う。新卒1年目から副業を開始、複数のスタートアップでプロジェクトマネージャーを務める。

城後さん:新卒1年目の秋頃、学生時代に関わっていたスタートアップのメンバーから開発のディレクションを手伝ってほしいと誘われたのがきっかけでした。本業以外の経験を積みたいと思っていたので、その後もほかの組織から誘いがあれば引き受けていました。そうしているうちに関わる組織が増え、今に至っています。

4人目の登壇者は梶川奈津子さん。在学中からクリエイティブ領域でPRコミュニケ―ションに携わり、2015年に人材サービス会社に入社、広報や新卒採用業務を担当してきた。副業でライターやPRとしても仕事をしている。

上記の3人とは異なり、梶川さんは「副業をやりたい」という意思を持ち、自ら行動を起こした。

梶川さん:新卒時から、自分が『楽しい』と思えることを仕事にしたいと考えていました。幸い最初に配属された広報も、現在の新卒採用もやりがいを持って取り組めています。ただ異動することが決まったとき、新卒採用に担当が変わることで、これまで広報で楽しんでいた「文章で伝える」ということが少なくなってしまうことが少し残念だったのも事実です。そこで思い切って、編集者である長谷川リョーさんのアシスタントに応募したのが、副業の始まりです。

本業と副業の学びをいかに循環させられるか

トークセッションでは『UNLEASH』編集者の小山和之がモデレーターを務め、4人の「副業」との向き合い方を掘り下げていく。

モデレーターを務めたのはinquireの小山和之。今年の3月まで週3.75日正社員としてデザインファームに勤務、現在はフリーランスで活動する。

――外からチャンスがやってきて副業を始めた人、自ら本業以外の場に飛び込んだ人など、始め方にも違いが見られます。実際始めるとなったとき、本業の会社とはどのようにコミュニケーションを取っていかれたのでしょうか?

明石さん:会社が副業に寛容で好きにやっておいでというスタンスなので、特に説得する必要はありませんでした。

梶川さん:わたしは直属の上司と担当の役員に、なぜ副業をするのかを説明した上で、申請をしました。とくに反対されることはなく「梶川に合ってそうだね」と背中を押してもらえましたね。

大崎さん:同じく申請をするために、目指しているキャリアや、なぜ副業をするのかなどは上司に伝えました。

城後さん:僕も人事との面談で、「副業で得た知見や経験を還元すること」や「会社の仕事には影響を与えないこと」を明確に伝え、許可を得た上で副業を始めました。まだ副業が浸透していない組織であれば、そういったコミュニケーションは重要ですよね。

――どちらかの仕事で得た知見や経験を還元できるのは、複数の仕事に携わる大きなメリットですよね。本業と副業を並行して行うなかで、互いに良い影響はありましたか?

城後さん:本業と副業が同じ職種なので、得たナレッジや経験を活かせている実感はありますね。

明石さん:私も本業と副業が近い領域なので、取り組んでいる仕事が業界全体においてどこに位置づけられるかが見通せて、本業の仕事に対する解像度が上がりました。あとは相場感もリアルに掴めました。

城後さん:梶川さんや大崎さんは本業と副業が別の職種ですよね。互いに影響があると感じることはありますか?

梶川さん:採用においてライティングで得たスキルが役に立つ場面は多々あります。例えば面接を行う際は、相手が過去の経験をどう解釈したのかを掘り下げ、モチベーションの源泉を探る必要がある。その過程では相手の感情を引き出し、それを客観的に言語化しなければいけない。まさに取材やインタビュー、ライティングの力が問われます。

大崎さん:わたしは副業のおかげでマインドセットが変わりましたね。個人の仕事でもある程度は稼げるという自信が生まれ、視野がぐっと広がった。そうすると本業でも周りの顔色を伺ったり、忖度をせずに外から得た知見を踏まえて、本質的な解決に向けた意見を言えるようになりました。

また副業でPRとして実績を積み、SNSなどで発信するうちに、社内でもPRに近い仕事を頼まれるようになったんです。

“お金”と“時間”に対する意識の変化

――スキルの向上だけでなく、マインドセットや本業での仕事内容など、ポジティブな影響があったんですね。副業を通して生活面での変化はありましたか?

大崎さん:より細かく時間管理を行うようになりました。PRは関わっている組織について思考する時間を確保しないと務まらない。移動時間の30分や1時間に集中して発散したり、その場で共有してフィードバックをもらうような習慣をつけています。あとはオンオフの切り替え。土日も仕事モードが続いているなと思う時期は、あえて機内モードにしてます。

城後さん:僕も気づいたらずっと仕事について考えてしまうタイプなので、オフにする時間を意識的につくってます。副業を始めると睡眠時間が少なくなる日もありますが、経験を得るために副業をしているので不満はないですね。梶川さんや明石さんのようにライターの仕事は、プロマネのような職種と違い、実作業の時間が多く、より時間管理が大変な印象です。

梶川さん:きつい瞬間もありますが、経験値が得られ、仕事の幅が広がる喜びは何事にも代え難いですね。その喜びがモチベーションの1つになっています。

明石さん:始めた頃はきつかったですね。自分の市場価値を見極めるために仕事を沢山受けた結果、週4本も締め切りを抱えてたことも…。今は、自分でないとできない仕事、本当に会いたい人に会える仕事をしようと、模索しています。

大崎さん:成果物を積み上げる仕事は、つい消耗しがちですよね。わたしも単発のプレスリリースの執筆案件より長期的に組織に関わる案件を優先し、一つ一つの組織にじっくり向き合うようにしています。

――生活スタイルだけでなく収入面での変化はありましたか?

明石さん:副業のおかげで多少は貯金する余裕ができました。(笑)

大崎さん:わたしも余裕ができ、書籍やiPadなど、仕事に活きる消費を惜しまなくなりました。元々学生時代から稼ぐことにポジティブな意識がありましたが、副業を始めてからは、始める前に比べて「支出をどう減らすか」よりも、どう稼ぐいで自己投資のためのお金をつくり出すか、という建設的な思考になりました。

梶川さん:使えるお金が増えた一方で、必要なものに効率的にお金を使いたいという想いが強くなりましたね。自分の労働に対する対価が数字ではっきりと現れる経験をしたことで、よりお金にシビアになりました。

――労働に対する対価という言葉が出ましたが、みなさん副業の報酬ってどのように交渉されてますか?始めた頃は相場もわからないと思うのですが…。

明石さん:編集者やライターは、企画や取材、ライティングなど、どこまでやるかで必要なリソースが異なります。そこを明確にした上で提示された金額に納得感があるかを判断しています。

城後さん:僕もほぼ同じです。相手が何を期待しているか聞いた上で、自分のなかの相場と照らし合わせ、妥当だと思えたら引き受けます。

大崎さん:相手の期待値を握るは大切ですよね。どのくらいコミットしてほしいのか、どのようなアウトプットが求められてるか。それに対した提供できる価値や実績を正直に提示したうえで話し合いたい。お互いが良い精神状態で働くためにも、その辺りのコミュニケーションは怠らない方がいいと思っています。

あえて“副業”のままにしておくという選択

――収入も増えて、心地よく働ける副業先が増えてくると、フリーランスになろうとか、いずれかの組織にフルで関わろうかなと考えることはありませんか?

城後さん:今の働き方に満足しているので、1つの組織に属すとか、フリーランスになるという選択肢はあまり考えていません。複数の組織で切磋琢磨しながらも、主となる所属があるのは精神的にも健やかでいられる。

梶川さん:ちょっと心が揺れる瞬間はあります(笑)けれど提供する価値に対してダイレクトにリターンが返ってくる副業も、大きな組織のなかで日々新たな学びの得られる本業も、どちらも捨てがたいですね。

明石さん:私も副業を本業にしようとは思っていないです。信頼する上司に教えてもらえる環境があり、組織づくりの経験も積める環境を離れるのはもったいなく感じますし、まだサイボウズで成し遂げたいこともあるので。

大崎さん:本業にしか得られない経験ってありますよね。例えば企業戦略を策定し、多額の金額を動かすような経験は、恐らくフリーランスではなかなか得られないと思います。わたしもいずれフリーのPRとして独立したいのですが、まず本業でしっかり成果を残したい。独立後に今の職場の人が「あれをやった大崎さんか!」と、すぐ思い出せる存在になりたい。

――本業も副業も、自分の成長をデザインした上で選び取られていると感じました。皆さんは5年後どのようなキャリアを描いていますか?

大崎さん:最終的な夢はバリバリ働きながら子どもを育てること。子育てと仕事の両立は大変だという刷り込みに負けず、どっちも楽しみたい。そのためにフリーのPRや広報として生きる道を学生時代から模索してきましたし、今は副業で実験をしている段階です。

梶川さん:私も「〇〇といえば梶川」とラベルがつく状態を目指したいですね。本業で取り組んできたPRと、副業のライティングを掛け合わせ、価値あるものを最適な人に届けるお手伝いがしたい。

明石さん:まだ明確に描いている姿はなくて、今は一緒に働きたいと思える人と、心から楽しいと思える仕事を積み重ねていきたいですね。一方でこの前「人生の構成をちゃんとした方がいい」と言われたこともあって。副業であたふたしている自分を反省しつつ、今年は考える時間を取っていきたいですね。

城後さん:僕は今後も複数の組織に属して刺激を得ながら、関わるサービスやプロダクトを爆裂に伸ばしたい。個人としてのネームバリュー高めることもしながらも、組織に貢献し、事業に関わる人を全員ハッピーな状態にしたい。

収入を求めて余った時間とリソースを無意に差し出すのではなく、明確な意図を持って自分の成長に必要な場を見つける。登壇者4人の本業と副業への関わり方は、リード・ホフマン氏の提唱する「アライアンス」を連想させる。

アライアンスとは個人と企業が互いの成長のために結ぶ、互恵的な信頼関係だ。個人は会社の成功に、会社は個人の市場価値の向上に時間と労力を投入し、提携をする。

そこで個人に求められるのは、「どのような成長を得たいのか」と「組織に何をもたらすか」を明確にすることだ。「副業解禁」を前に、まずは2つの問いに向き合ってみると、取るべき選択肢がみえてくるかもしれない。

本イベント中に使用したハッシュタグ『#これからの副業』には、副業や働き方について多くの意見が寄せられ、当日は日本のTwitterトレンド2位にもなった。「副業」に関する議論への注目度の高さが伺える。

今後もinquireではイベントを通じて、既存の価値観に縛られない若者が集い、幅広い分野における未来を問う場をつくっていきたい。

【登壇者プロフィール】
明石 悠佳(あかし ゆか)
1992年生まれ、京都出身。2015年に新卒でサイボウズに入社し、1年半製品プロモーションの経験を経たのちコーポレートブランディング部へ異動。現在は「サイボウズ式」の企画編集や、企業ブランディングのためのコンテンツ制作を担当。今年1月から「複業」でフリーランスの編集者/ライターとしても活動を行っている。

大崎 祐子(おおさき ゆうこ)
1993年8月14日生長崎県長崎市出身。熊本大学在学中に東京や海外の人と働く「リモートワーク」を企画/営業/広報の領域で実践。ハヤカワ五味・きゅんくんといった若手クリエイターのマネージャー、(株)キャスターの広報を経て2016年より、IT大手企業に入社。現在は事業戦略・ブランド推進部門に所属。2017年11月より、フリーランスの広報・ブランディングとして会社公認の副業を開始。(株)インクワイア/(株)Yenomの広報として活動中。

梶川 奈津子(かじかわ なつこ)
1992年、福岡県出身。現在、株式会社リクルートで新卒採用を担当。早稲田大学文学部在学中に、クリエーティブブティックGLIDERや一般社団法人HLABにおいて、PRコミュニケ―ションの現場を経験。以降、仕事の軸となる。2015年にリクルートグループに入社し、広報・新卒採用業務に従事。現在、ライターとして週末に活動しており、ミレニアルズ向けのWebメディアを中心に執筆中。

城後 建人(じょうご けんと)
プロジェクトマネージャー。1993年3月生まれ、福岡県久留米市出身。中央大学商学部卒。株式会社U-NOTEで人材系ウェブサービスのプロジェクトマネジメント・開発ディレクションに従事。傍ら個人で「IDENTITY名古屋」「UNLEASH」「soar」など複数メディアのディレクション・マーケティングに携わる。

小山 和之(こやま かずゆき)
1989年生まれ。大学卒業後、建築の意匠設計を経て、Webコンサル会社にて企業のWeb戦略ディレクション、オウンドメディアの企画・立ち上げ・編集等に従事。傍ら個人でもフリーの編集・ライターとして活動した後、現在に至る。Webコミュニケーションの戦略設計・編集、コンテンツ制作を行う。

イベント開催中に流していたBGMを、Spotifyでプレイリストとして公開しています。ぜひチェックしてみてください。


Photographer: Shintaro Nakamura