inquireが運営するメディア『UNLEASH』主催のイベント「いま私たちが世代に問うべきことは何か?ミレニアルズ編集者の挑戦」を3月19日に開催しました。会場は、3月にオープンしたばかりのミレニアルズ向け宿泊施設「The Millennials Shibuya」です。

「ミレニアルズ×編集」をテーマに、『Business Insider Japan』で編集者・記者を務める西山里緒さん、『Be inspired!』編集長の平山潤さん、3月に動画メディア『BLAST』を立ち上げた石井リナさんが登壇。モデレーターを務めたのは、『UNLEASH』編集者の岡田弘太郎です。

気鋭の若手編集者がミレニアルズに投げかける問いとは――。

気鋭のミレニアルズ編集者3名が登壇

ミレニアルズ編集者たちは、どんな問いやメッセージを投げかけるためにメディアを運営しているのか。まず、編集者自身と、関わっているメディアの紹介が行われました。

1人目は、BLAST CEO / 編集長の石井リナさんです。石井リナさんは、3月3日に女性向けエンパワーメントメディア『BLAST』を立ち上げたばかり。

『BLAST』は女性の自由な生き方を肯定することを目指し、その思想に共感した読者に対して情報発信を行っています。InstagramストーリーズとYouTubeのプラットフォームを活用し、ファッションから社会問題まで幅広いトピックを横断的に発信しています。

以前編集長を務めていた『COMPASS』にて海外のミレニアルズについて発信する中で、「エンパワーメント」や「フェミニズム」という概念が根付いている現状を知ったことが、BLASTを立ち上げるきっかけになりました。

石井リナ:日本は昨年発表されたジェンダーギャップ指数で、「男女平等ランクが世界114位」と、先進国の中で最も低かった。日本の女性は、抑圧されていることに気づいていないんです。そんな日本人女性をエンパワーメントする必要があると考え、『BLAST』を立ち上げました。

平山潤さんが編集長を務める『Be inspired!』は、マイノリティの声を発信し、社会問題に関心を持つきっかけを作るWebマガジンです。イベントを開催し、コミュニティづくりにも力を入れていることが特徴のひとつ。そんな『Be inspired!』が対象とするのは、「社会問題に関心がない人」だと語ります。

平山:ミレニアルズは、テレビで9.11を見たり、3.11を経験したりと悲惨な出来事を間近で見てきた世代です。そんな彼らは大きく2つのタイプに分けられると考えています。

片方は「いつ死ぬか分からないから今を楽しもう」と刹那的な考え方を持つ人々。もう片方は「いつ死ぬか分からないから社会のために行動しよう」という考えを持つ人です。『Be inspired!』では、前者の楽しもうとしている人が、社会を動かす人になってくれたらと思いメディアを運営しています。

3人目は、ミレニアル世代のビジネスパーソンをターゲットとしたメディア『Business Insider Japan』で編集者・記者を務める西山里緒さん。同誌では、「ミレニアル世代のカルチャー」「デジタル×社会」をテーマに発信を続けています。

西山さんは「Tinderがなぜミレニアル世代に受け入れられたのか」や「暗号通貨やブロックチェーンが社会に与えるインパクト」など複数のテーマを追いながら、世代の価値観を浮き彫りにしています。

西山:記事を作るときに心掛けているのは、読者と価値観をそろえること。ミレニアルズは、既存の価値観や当たり前とされていることに疑問を感じている人が多いはず。その裏側には、資本主義や経済成長の限界を感じる中で、自分はどうしたら良いのかわからない、という不安が存在するのではないかと感じています。そんなミレニアルズに対して、媒体として統一された価値観を提示し、ともに考えていくスタンスを取っています。

ミレニアルズは「複雑すぎる」が、共通のマインドセットでつながることができる

続いて、トークセッションに。

――『WIRED』誌のインタビューにて、欧米のミレニアルズの女性に支持されているメディア『Refinery 29』のクリエイティブ・ディレクターが、「ミレニアルズは世代ではなく、マインドセット」と語っていたのが印象的でした。石井リナさんが手がける『BLAST』は、『Refinery 29』にインスパイアされたんですよね。

石井リナ:そうですね。世代やカテゴリで読者を定義するのではなく、マインドセットを共有できる人が集うメディアを作りたくて『BLAST』を立ち上げました。なので、「ファッション誌」のようにそのカテゴリの情報しか扱わないのではなく、ファッションから社会問題まで幅広いテーマを扱うんです。

また、『Refinery29』のクリエイティブディレクターは、ミレニアルズは「複雑すぎる人」だとも語っていて。以前、有名アーティストの衣装スタイリストとして活躍している20歳の方に取材したときに、「肩書きでくくられたくない」と言っていたのが印象的でした。「スタイリストと呼ばれるのは嫌で、アート活動もするし、コラムも書きたい」そんな多面性を持ち、キャリアにする人が増えているように感じています。

西山:マインドセットや価値観でつながるという点に強く共感しますね。私も日々取材する中で感じるのは、ミレニアルズは国境を越えて価値観を共有できること。今日の会場であるThe Millennials Shibuyaを運営するグローバルエージェンツが手掛けるソーシャルアパートメントを以前記事にしたことがあります。その記事を米国の『Business Insider』に翻訳したら、多くの人に読んでいただいたんですよね。

――ミレニアルズの価値観は、国境を超えて共有できるものだと。

西山:その象徴的な事例がNetflixだと考えています。オリジナル作品には、ミレニアルズの価値観を表したものが多い。たとえば、コメディアンのアジズ・アンサリが主演の『マスター・オブ・ゼロ』はニューヨークで暮らすミレニアルズのいまを描くような作品で、国境関係なくミレニアルズに支持されていると。

先ほど「肩書でくくられたくない」という話がありましたが、アジズ・アンサリ自身も、コメディアンであり、ドラマ監督でありとマルチタレントな人なんですよね。

「ミレニアルズ」という言葉が分断を生むのではないか

平山:前提に切り込むようで恐縮なんですが(笑)、「ミレニアルズ」という言葉を疑うことも必要だと考えています。その言葉で世代を定義することが、分断を生んでいると思うんですよね。他にも「SDGs」や「エシカル」も同じで、日本人は言葉から入ってしまう癖があります。

「ミレニアルズ」と括るのではなく、上の世代と理解し合いながら手を組むことで、より大きなインパクトを社会に与えられるのではないかと。『Be inspired!』では、取材対象となる人に焦点を当てて思想や具体的な取り組みを紹介することで、その人が面白いから環境問題や社会問題に関心を持つように伝え方を工夫していて。

――『Be inspired!』では、インタビュー相手の魅力を伝えるためにどのような工夫を行っているんですか。

平山:写真などのクリエイティブにこだわることと、わかりやすく丁寧に伝えることを意識しています。記事中に分からない言葉がたくさん出てくると、他人事になってしまうんですよ。いくら写真にこだわったとしても、理解できないと面白いと思えませんからね。

コミュニティを組成し、フラットな関係性で読者と関わる

――そんな『Be inspired!』や姉妹メディアの『HEAPS』では、過去にインタビューした相手に登壇いただくイベント開催に力を入れてますよね。

平山:そうですね。メディアを通じて読者に社会問題に関心を持ってもらい、イベントは「読者が行動を起こすためにつながる場」と捉えています。共通の社会問題に対する視座を持つ人が集まり、ムーブメントを起こす起点であり、そこに関わる人は全員フラットであるべきと考えているんですよ。

なので、「コントリビューター」として読者にイベント運営に参加してもらうことがあります。

西山:『Business Insider Japan』でも、読者参加型の共創コミュニティづくりを始めているんです。私たちが目指しているのは、ホラクラシー型のフラットなコミュニティ運営です。特定のスターを呼んで、その人のファンが集うのではなく、編集部も読者もフラットな関係でメディアを盛り上げる仲間になってほしいんです。

石井リナ:前職でWebメディアの編集長を務めていた時もイベントを定期的に開催していたのですが、『BLAST』でも今後取り組んでいきたいんですよね。『Refinery29』も、メディア名にちなんで29の空間を彩る「29Rooms」というイベントを世界の各都市で開催していて。イベントはメディアの世界観を伝え、読者の熱量を発散させてあげるツールだと捉えていますね。

「半歩先を行く」編集者の役割

――”権威ある”編集部と、発信する情報の受け手である”読者”という関係性ではなく、その両者がフラットになり、一緒にメディアを盛り上げる仲間になっている印象を受けました。そんな中で、編集者の役割はどのように変化していくのでしょうか。

平山:編集者の役割は、人と人をつなぐ「コミュニティリーダー」だと考えています。社会問題の解決に取り組むコミュニティを組成し、皆の足並みを揃えてあげるポジションですね。

西山:私は、半歩先を行くことだと思っています。既存の価値観の1歩や2歩先では、行き過ぎてしまう。半歩先の価値観を示すことで、そのコミュニティやメディアの向かう道を指し示します。たとえば、ミレニアル世代の多様な価値観の一つとして、最近はポリアモリー(複数性愛)やアセクシャル(無性愛)に興味があります。今は半歩先にありますが、今後日本でも広がっていくと思っているんです。

石井リナ:半歩先を行くことは『BLAST』でも意識しています。今なら新しい家族のあり方、選択的シングルマザーや事実婚など、そういった価値観がもっと普及してもいいのではないか、という視点からコンテンツを企画しています。

――『BLAST』では、メディアで取り上げる人物を「オピニオンリーダー」と呼んでいますよね。その呼び方にも、半歩先の価値観を提示するという姿勢が現れているように感じています。

石井リナ:そうですね。『BLAST』ではインタビュイーを「インフルエンサー」ではなく「オピニオンリーダー」と呼んでいます。フォロワー数の多さではなく、自身の価値観やルールがきちんとあって、それを発信している人々に出てもらいたい。彼女らの半歩先を行く価値観を読者に伝えることで、今一度既存の価値観を疑うきっかけを作りたいですし、アクションも促したいと思っています。

4月は「ミレニアル世代の副業論」をテーマにしたイベントを開催

今回のイベントでは、3人のミレニアルズ編集者に登壇していただきました。それぞれの活動や思想から、ミレニアルズの持つ価値観や社会に投げかけたい問いまで、これからの時代を考える上でのさまざまなヒントが見えてきました。

トークセッションの終了後は、登壇者も交えてミートアップを開催。イベント終了ギリギリまで、オープンしたばかりの「The Millennials Shibuya」で交流を楽しむ人も。

イベント開催中に流していたBGMは、SpotifyとApple Musicでプレイリストとして公開しています。ぜひチェックしてみてください。また、当日の様子はTwitterのモーメントにもまとめております。

『UNLEASH』を運営するinquireでは、今後も編集部が中心となって、定期的にイベントを開催していきます。4月のイベントテーマは「ミレニアル世代が考える、これからの”副業”」です。興味のある方は、下記ページより詳細をチェックしてみてください。

ミレニアル世代が考えるこれからの副業

future inquiry #2「ミレニアル世代が考える、これからの”副業”」

Photographer : Kazuyuki Koyama