「個の時代だから」なんて言葉を目にする機会が増えた。会社に依存せず生きていける力を身につけ、自分らしくキャリアや暮らしを選びとる。リモートワークをしながら住む場所にとらわれずに暮らす。そんな自由な生き方への憧れや期待を抱いている人も多いだろう。

人が「こうあるべき」という呪縛から解き放たれるの良いことだ。けれど、それは地域や会社といった従来のコミュニティから離れていくことも意味する。

個の時代だからこそ、思想や価値観を共有できる人とのつながりを求め、コワーキングスペースやオフラインのイベントやオンラインサロンに集まる人も増えているように思う。

なぜ今、”コミュニティテック”を掲げるのか

最近では、そうしたコミュニティを紡ぐためのテクノロジーや、それを活用したサービスが次々に登場している。UNLEASHでも、コミュニティコインプロジェクトシェアプラットフォームなど、多様なサービスを紹介してきた。

これからのコミュニティは、いかに生まれ、育っていくのか。そんな問いに向き合う場が、2019年1月から開かれる「コミュニティテックカンファレンス」だ。

2018年12月12日には、その前夜祭となる「コミュニティテックカンファレンス-2019年”コミュニティテック元年”宣言-」が開催され、同カンファレンスの発起人たちが集った。

発起人は、株式会社ツクルバCCOの中村真広さん、株式会社CAMPFIRE/FAAVO事業責任者の斎藤隆太さん、THECOO株式会社CEOの平良真人さん、株式会社TOMOSHIBI CEOの田中駆さんだ。異なる軸で事業を展開する4人が、自身の取り組みや実現したいコミュニティの姿について熱く語り合った。

“コミュニティテック”とは、コミュニティのあり方をテクノロジーによって刷新しようとするサービスや事業領域を指す造語だ。この言葉を掲げた背景を田中さんが説明する。

田中さん「昔は、生まれた地域や環境によって、属するコミュニティが決まっていました。しかし、インターネットの普及により、場所や時間を問わず、人と人はつながれるようになった。最近では、ビジネスにおいても、コミュニティの重要性が再認識されています。そんな転換期だからこそ、その定義を改めて問い直し、コミュニティのあり方を議論したいと思っています」

4つの“コミュニティ×〇〇”が紡ぐ、人と人のつながり

小さなアイディアを形にする地域特化型のファンディングサービス「FAAVO」

初めに、“コミュニティテック”に携わってきた4人が、それぞれのサービスについて紹介する。

1人目は、地域のプロジェクトに特化したクラウドファンディングサービス「FAAVO」を手がける斎藤さん。地域を盛り上げる“小さなアイディア”を支援したいと語る。

斎藤さん「日本には、決まったメンバーでお金を積み立て、必要に応じて融通し合う『無尽』『頼母子』『模合』といった仕組みがありました。こうした互助精神に溢れるコミュニティをインターネット化したい。そうすれば、一人で都心に住んでいる人であっても、地域とのつながりを紡いでいける。

親しい友達同士でお金を送り合う『polca』と、顔の見えない人同士が支援を送り合う『CAMPFIRE』の間にある、“コミュニティファンディング”に『FAAVO』を位置づけたいと考えています」

「感謝」を媒介につながりを生むコミュニティサービス「KOU」

続いて、中村真広さんが「感謝」を循環させるコミュニティコインアプリ「KOU」を紹介する。「KOU」では、スマホで簡単にコミュニティを運営し、仲間内でオリジナルのコインを作成、「感謝」をやりとりできる。

困りごとを投稿し、答えてくれた仲間に独自のコインでお返しする。中村さんが取り戻したいのは、こうした“弱さ”をさらけ出すことから始まるコミュニケーションだ。

中村さん「東京はあらゆるものが経済的な交換でやりとりされている。何をするにも、お金を払い、サービスを受ける必要がある。でも、本当はもっとコミュニティのなかで、お金を介さずとも、助け合えることがあるはず。学生の頃、気軽に友達を頼っていたように、年を重ねた大人だって助け合って良い。『KOU』で、そんなつながりをつくっていきたい」

目指すは「感謝経済」の構築。KOUがテクノロジーで切り開くコミュニティの新領域とは

「fanicon」は熱狂を増幅させるファンコミュニティをつくる

3人目は「fanicon」の平良真人さん。同サービスでは、タレントやインフルエンサーがファンコミュニティアプリを作成できる。ライブ配信やグループチャット、オフショット投稿、スクラッチクジなど、幅広い機能を使ってファンと交流を深めている。

平良さんにとって「fanicon」はコアなファンが集う「ホームスタジアム」のような場所。とあるYouTuberのファンイベントでみた光景から着想を得たそうだ。

平良さん「イベントが終わった後、YouTuberの前にファンの人がずらりと並び、熱心に自己紹介をしていたんです。憧れの人に自分のことを伝え、とても嬉しそう顔をしている。それをみて、この楽しさをもっと多くの人に届けられないかと考えました。『fanicon』によって、ファンの人の人生が少しでも明るくなれば。そんな願いを込めて開発しています」

「tomoshibi」が後押しする、共感と挑戦でつながる仲間づくり

4人目は、想いのあるプロジェクトに共感と仲間が集まるプラットフォーム「tomoshibi」の田中駆さん。

「tomoshibi」では、誰もがプロジェクトを立ち上げ、協力してくれる仲間を募ることができる。新しいことに挑戦したい人を後押しすると同時に、一人ひとりがより多様なコミュニティに属し、働く社会を実現しようとしている。

田中さん「社会人になると、多くの人が週に5日、同じコミュニティの中で生活する。地元や学校の仲間など、それまで属していた複数のコミュニティと切り離されてしまう。

『tomoshibi』があれば、一人ひとりが場所の制約をこえ、複数のプロジェクトに携われます。それによって、誰もが多様なコミュニティを横断し、『やりたいことに、やりたい仲間と、やりたいように挑戦できる』場をつくっていきたいです」

活性化するコミュニティは何が違うのか

各サービスの紹介の後は、会場やTwitterから質問を受けつけ、コミュニティテックについて意見を交わす。

参加者からの「コミュニティの“盛り上がり”をいかに成果として可視化するのか」という問いに対し、田中さんと斎藤さんは、流通するプロジェクトの数をKPIに据えていると回答する。

田中さん「『tomoshibi』では、立ち上がったプロジェクトの数、完了したプロジェクトの数を測っています。その数値が『どれだけの人が新しい働き方を選べたか』の指標になると考えています」

斎藤さん「同じく、流通するプロジェクトの総量を追いかけています。また、『FAAVO』では、各都道府県のエリアオーナーにライセンスを貸し、クラウドファンディングプラットフォームをフランチャイズ運営できるようにしています。『いかに地域にクラウドファンディングを根付かせるか』を大切にしたいので、“エリアオーナー”の数も注視しています」

「fanicon」の平良さんは、「ファンがどれだけ満足しているかに尽きる」と語る。独自の基準を設定し、ファンのアクティブ率を測ってきたという。

中村さんも同様に、「満足」や「盛り上がり」を追いかけたいが、その方法は今も模索中だ。

中村さん「ただ単に大きな額がやりとりされていればいいのか、やりとりの数が多ければいいのかというと、そうも言い切れない部分があると思っています。今は、どれだけの人が日々使ってくれているかを追っていますが、ひきつづき定性と定量の両方で、ちょうど良い指標を研究していく必要があると思います」

中村さんの発言に他の登壇者も大きく頷く。多様な定義を持つ「コミュニティ」を扱う上で、どのような指標を置くのかは、検討の余地がありそうだ。

活性化するコミュニティに共通する要素とは?

コミュニティ内をいかに盛り上げていくか、日々試行錯誤をしている3人に対し、田中さんは「活性化するコミュニティに必要な要素とは何か?」という問いを投げかける。

田中さん自身は、コミュニティを応援する人に対し、必ず複数の関わり方を選べるよう心がけているそうだ。

田中さん「『tomoshibi』では、プロジェクトへの関わり方にグラデーションを持たせるようにしています。目標や思想、価値観に共感していても、どれだけ関われるのか、割ける時間や労力は人によって異なります。それを許容できる仕組みを意識しています」

faniconの平良さんは盛り上がりを生む要素として、「参加」「応援」「貢献」「挑戦」という4つのキーワードを挙げる。

平良さん「この4つのうち2つ以上が揃えば、コミュニティは盛り上がると思います。例えば、僕が『本気で髪を伸ばす!』といった『挑戦』を立ち上げ、『応援』を呼びかけると、恐らく反応する人が出てくるはず。必死で努力をする過程を公開すれば、きっと応援してくれる人が出てくる(笑)複雑なようでいてシンプルだと感じます」

「応援」というキーワードを受け、斎藤さんは「最初の応援者」がいることの大切さを指摘する。

斎藤さん「コミュニティのなかで勇気を出して手を挙げたのに、誰も反応してくれなかったら、きっと二度目は起こりづらい。だから、『FAAVO』では、地域で何か新しい試みを仕掛けようとする人の、最初のフォロワーになれるよう心がけています。挑戦できる“安心感”が、コミュニティを活性化させるのではないでしょうか」

3人の意見を踏まえ、中村さんは分野を超え、「成功するコミュニティ」の共通点を指摘する。

中村さん「一見異なる領域においても、応援する人される人が一緒になり、同じ方向を向いて走っている。この点は共通していると感じました。これまでのように、雇用する側とされる側、支援する側される側が一対一で向き合い、存在するのではない。掲げられた目標に、一人ひとりが共感し、手を取り合う。そのあり方に、これからのコミュニティのヒントがある気がしています」 

4人の会話を聞きながら、文化人類学者の松村圭一郎さんの著書「うしろめたさの人類学」を思い出した。他者への共感、それに伴う「贈与」という行為によって、私たちは市場や国家のルールを越え、新たな「つながり」を編み直していける。そう提案する本著に、こんな一説がある。

愛情も、怒りも、悲しみも、自分だけのもののように思える『こころ』も、他者との有形・無形のやりとりのなかで生み出される。そして、そのやりとりの方法が、社会を心地よい場所にするかどうかを決めている。

コミュニティテックは他者との有形・無形のやりとりをテクノロジーによって変えていく試みだ。だからこそ「社会をどう心地よい場所にするか」といった文脈でも対話を重ねていく必要があるだろう。

来年の「コミュニティテックカンファレンス2019」では、あえてスタートアップ界隈以外からもゲストを呼び、「コミュニティテック」を多様な切り口で取り上げていくという。ビジネスやスタートアップといったトピックにとどまらず、多面的な議論が繰り広げられることを今から楽しみにしたい。

コミュニティテックカンファレンス2019
第1回:「1粒1000円のライチで起業家育成。地方創生優良事例に選ばれた宮崎県新富町こゆ財団の関係人口づくり」
イベントURL:https://peatix.com/event/581353
第2回:「プロジェクトコミュニティが創出する、オープンイノベーションの未来」
イベントURL:https://community-tech-conference-project.peatix.com/
第3回:「感謝がめぐるコミュニティのおかね」
イベントURL:https://peatix.com/event/584626
第4回:「元宝塚歌劇団 妃海風にとってのファンコミュ二ティとは?」
イベントURL:随時公開予定